栗を知り尽くしているから出せる力強い味
次に訪れたのは、岩間駅から1kmほどの距離にある、「いわまの栗や 小田喜商店」です。
こちらは創業約60年の栗加工専門店。数々の菓子店やレストランにも栗を提供し、厚い信頼を寄せられている栗のプロフェッショナルです。
まず驚かされたのは、「もんぶらんソフト」の栗のクリームが放つ風味の力強さ。使われている材料は栗と砂糖だけいい、まったり濃厚な質感のクリームが舌にからみつき、栗の風味がぐんぐん増して体じゅうを包み込んでいきます。
そこにソフトクリームのミルキーでやさしい風味がマッチして、後に残るのは豊かな余韻。ふうっとため息がこぼれます。
「笠間市のなかでもこの岩間地区は、栗の一大産地で、栗農家が密集しています。その産地の中にあり、300~400軒の農家から持ち込まれる、その日に採れたての栗を加工できるのは、大きなメリット」と語るのは、代表取締役の石田啓一さん。
届けられた栗は、すぐに洗って、おいしさが逃げないように冷蔵庫で保管。鮮度を損なうことなく、手早くおいしい商品に仕上げるのが、小田喜商店の身上です。
栗の加工を柱とする店らしく、店頭に並ぶ商品は、生栗からむき栗、焼栗、栗の甘露煮、衣栗(渋皮煮)、栗ペーストといった、栗の味わいをそのまま楽しむものが多数。それに加えて人気を集めているのが、お菓子屋としてではなく“栗や”としてつくる、栗の風味を最大限に生かした栗菓子です。
そして、代表作は、その名も「ぎゅ」。裏ごした栗に砂糖を加えて“ぎゅ”っとプレスし、表面に砂糖をふってキャラメル状になるまで焼いた、ごくシンプルなお菓子です。ぱっと見ると栗羊羹のようですが、食べてみればそれとは違い、栗以上に栗!
栗の香りと旨みが大波のように押し寄せて、もはや押し流されそうに。口当たりはしっとりしていて、やわらかすぎず、固すぎず、なんともいえない滋味深さ。圧倒的な風味に包まれて、栗のおいしさを再認識させられます。
また、数ある栗の品種の中でも、小田喜商店イチオシというのが、「ぽろたん」です。名前の由来は、加熱すると鬼皮と一緒に渋皮がぽろっと剥ける、この品種ならではの特長から。
「栗は、皮のきわに旨みとおいしさが溜まります。普通の栗は、皮をむいたときにそれが一緒に削られてしまうのですが、ぽろたんは実と一緒に残る。だから、旨みが強いんです」と、石田さん。
「ぽろちゃんおこわ」は、そのぽろたんを使ってつくられたひと品です。
もち米にぽろたんをごろごろと加え、味付けは塩のみ。栗から出る旨みが出汁となり、豊かな風味を存分に楽しめます。
しかも、食べる前に冷凍のままレンジで約3分温めればできあがり、というお手軽さ。もちっとしたもち米とほくっ、ほろっとした栗が混じり合い、至福のおいしさが広がります。
「固い鬼皮に包まれてはいますが、実は栗は、果物に属する果樹。湿度にも乾燥にも弱いので、きちんと管理しないとおいしくなくなってしまいます」と語る、石田さん。
すべての商品に栗の風味が存分に生かされているのは、栗を知り尽くし、日々、真摯に向き合っているから。
「この地域は、栗農家だけでなく、むき栗職人、加工屋、販売店など、さまざまな人たちが一体となって栗文化が出来上がっています。そこから届けられるおいしい栗を、多くの人に食べていただきたいですね」
栗に携わる人々の情熱が、栗の味わいをより一層深いものにしています。
いわまの栗や・小田喜商店
所在地 茨城県笠間市吉岡185-1
電話番号 0299-45-2638
営業時間 10:00~17:00(9~10月は~18:00)
定休日 日・月曜・祝日、その他不定休 ※9~12月は無休
https://www.kurihiko.com/
2023.09.28(木)
文=瀬戸理恵子
撮影=橋本 篤