「とにかく今、自分の中でアツい3冊」三浦直之

 「木ノ下さんにオススメしたい本」は今まさに自分の中でアツい本、最近読んだものから3冊を選びました。

 1冊目は、超能力を持つ少年少女が幽閉された謎の研究所が舞台の、スティーヴン・キング最新刊『異能機関』(文藝春秋)。帯の「『IT』ミーツ『ストレンジャー・シングス』」の一文にひかれて手に取り、実は昨日上巻を読み終わったところ……つまりまだ読み途中ですが、現時点でもう、めちゃくちゃ面白いですね。ジュブナイルものとSFとホラーを掛け合わせた世界観で、子どもたちがみずみずしい友情を深めていくキラキラしたパートと、彼らが大人たちに人体実験されていく残虐な場面が並行して語られ、読むものの心をアップ&ダウン、大きく揺さぶる構成になっています。現代の空気も巧みに描かれていますし、ぐいぐい読ませるので、すぐ下巻を読み始めました(笑)。

 2冊目は、伊藤 聡『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』(平凡社)。まんまタイトル通り、著者がスキンケアにハマっていく様子を綴っていく一冊です。

 どうして男性は女性に比べて自分の体に無頓着なのか、自分の男性性に向き合う本にもなっていて、読み終わった瞬間に本をバンッと置いて、速攻ドラッグストアへ化粧水と乳液を買いに走りました(笑)。僕、部屋も散らかっているし、家事もできないし、あらゆる自分へのケアができない人間なんです。そんな自分がスキンケアを試して朝起きたら、「肌がモチモチしてる!」って感動しちゃって。肌の調子がいいと気分がいいんですね。僕自身、元気をもらった本でもあります。

 3冊目は、江國香織『去年の雪』(KADOKAWA)。「東京芸術祭 2023」で上演する『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』の構想イメージのひとつにこの本があって、まさに、100人以上の登場人物のエピソードが浮かんでは消えていくような小説なんです。印象に残っているのは、老夫婦が鳩時計の鳩が出てくるのを一緒に見つめる場面。このしみじみとした瞬間に、二人の関係性や過ごしてきた時間など、色々なことが詰まっているように感じられるんです。人によって好きな場面は違うでしょうから、この本で読者会をやったら面白いんじゃないかと。

 この小説を読み終えて外に出ると、つい、すれ違う人たち一人ひとりの人生に思いを馳せてしまうというか、風景が変化するように思えて……この小説にある“モブ化されないフィクションの在り方”は、自分も戯曲を書くときに大事にしている部分でもあります。演劇はスポットライトが当たっている人以外も舞台上に存在し、観客が好き勝手に視点を選べる、そこが大きな魅力ですからね。

木ノ下裕一(きのした・ゆういち)

木ノ下歌舞伎主宰。
1985年和歌山市生まれ。2006年、京都造形芸術大学在学中に古典演目上演の補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。代表作に『三人吉三』『娘道成寺』『義経千本桜―渡海屋・大物浦―』など。2016年に上演した『勧進帳』の成果に対して、平成28年度文化庁芸術祭新人賞を受賞。第38回(令和元年度)京都府文化賞奨励賞受賞。令和2年度京都市芸術新人賞受賞。平成29年度京都市芸術文化特別奨励制度奨励者。渋谷・コクーン歌舞伎『切られの与三』(2018)の補綴を務めるなど、古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2024年度には、まつもと市民芸術館(長野)で芸術団団長に就任する。


三浦直之(みうら・なおゆき)

ロロ主宰。
宮城県出身。劇作家/演出家。2009年、主宰としてロロを旗揚げ。「家族」や「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。ドラマ脚本提供、MV監督、ワークショップ講師など演劇の枠にとらわれず幅広く活動。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。
 

東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』

監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生[KUNIO]
出演:リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉
スウィング:佐藤俊彦、大知

日程:2023年9月1日(金)~24日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
料金:(全席自由・入場整理番号付・税込)
【一般】5,500 円 
【スウィング俳優出演回】(9月13日 水曜、18日 月曜・祝日 公演限定)4,000 円
【65歳以上】5,000 円 【25歳以下】3,500 円 【高校生以下】1,000 円 【ペア割】10,000 円
プログラム詳細 https://tokyo-festival.jp/2023/program/kinoshita-kabuki/

ロロ 『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』

テキスト・演出:三浦直之(ロロ)
出演:⼤場みなみ、北尾 亘(Baobab)、⽥中美希恵、端⽥新菜(ままごと)、福原 冠(範宙遊泳)、松本亮

日程:2023年10月7日(土)~15日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
料金:(全席自由・入場整理番号付・税込)
【一般】4,000円
【25歳以下】2,000円(枚数限定)
【高校生以下】無料(枚数限定)
※高校生以下チケットは劇団サイトでのみ取り扱い
劇団サイト http://loloweb.jp/2023/07/28/osp/
プログラム詳細 https://tokyo-festival.jp/2023/program/lo-lo/

2023.09.14(木)
文=川添史子
撮影=増永彩子
編集=船寄洋之