必然的な出会いだったと思う。
片や、ロロという劇団で作・演出を手掛け、昨今は映像関係の仕事も多い三浦直之。片や、「すべての女性を応援する」というコンセプトの書店で店長をしていた花田菜々子。
三浦は読書狂として知られ、舞城王太郎をはじめ、偏愛する作家からの影響を舞台に落とし込んできた。一方、花田は『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』という実体験に基づく著作で、本や本屋との付き合い方を軽妙な筆致で綴っている。
ロロの次回公演『ロマンティックコメディ』(4月15日~4月24日 @東京芸術劇場シアターイースト)は本屋が舞台となるということで、三浦が対談したいと名前を挙げたのが花田菜々子。かくして、エモーショナルで熱気に満ちたクロストークが繰り広げられた。
そのトークの模様を前編と後編に分けてお届けする。前編では今回の対談のきっかけから、本や演劇との関わりについてが語られた。
» 対談後編「新しいロマンティックコメディのかたちとは?」を読む
実は、ずっと花田さんの著作のファンだったんです
――まず、今回、三浦さんが花田さんと対談してみたいと思ったきっかけからお聞きしたいのですが。
三浦 僕は本を読んでいる時間がいちばん好きなんですけど、次の公演は、本や読書にまつわる話にしようって思っていて。だったら書店員をされてきた花田さんと対談したいと思ったんです。あと、花田さんか書かれた『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(以下、であすす)が好きなので。
花田 ありがとうございます。
三浦 『であすす』は発売前にツイッターで情報が流れてきて、これはもう間違いないと思って、発売日に本屋が開いたらすぐに買いにいきました。その場で読んで興奮して、すぐにツイッターで感想を書いて。それくらい好きな本ですね。もう一冊の『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』も大好き。
花田 私はロロの『はなればなれたち』という作品を見て号泣してしまった経験がとても強く記憶に残っています。感動したというレベルじゃなくて、もう本当に涙が止まらなかったです。これって何なんだろうっていう、未だに分類できない感情が生まれました。
三浦 ありがとうございます。僕は花田さんが働いていらした、日比谷コテージという本屋がすごく好きな書店で。日比谷で稽古をしている時期は稽古場に行く前に必ずその本屋を覗くようにしていたんです。花田さんの選書コーナーを見て、気になったものを買うみたいな。花田さんはおすすめの本を紹介するにあたって、たくさん本を読まれるんですか?
花田 それなりには……(笑)。でも、実を言うと、書店員をやっていると、うまく本を読めなくなる時期があるんです。まわりの書店員の友人たちが体調不良のように「最近昔のように読書が楽しめてないんだ」と悩んでいるのをよく聞きますよ。“仕事”になってしまうからなのかな。書店のイベントやフェアとして扱うから目を通さなきゃとか、話題になっているから、文学賞にノミネートされているからとか、読んでおかなきゃというのがたくさんありすぎて。友人が書店員を辞めることになった時、「これで好きなだけ好きな本が読める」って晴れやかに言っていたのが忘れられない(笑)。
三浦 わかります。僕は演劇はもちろん、映画や漫画やアニメも好きなんですけど、やっぱり精神的に見られなくなることがあるんですよ。映画もすっと入ってこないし、演劇を見に行く気分でもなくなったり。でも、そういう時でも本だけは絶対読めるんです。多分それは自分のペースで読めるっていうのが大きいと思うんですよね。いつ読み始めてもいいし、いつ読むのをやめてもいい。そういう、ゆっくりとした時間に救われることが本当に多かった。
――選書コーナーの話がありましたが、花田さんはお客さんに本を手に取ってもらうために、どんな工夫をしましたか?
花田 私は、自分の書店員人生がたまたまヴィレッジ・ヴァンガードから始まっていて。あの店って雑貨とかお菓子などが沢山置いているじゃないですか。そういう目を引くものでお客さんを引き付けつつ、いかに多くの人に本のコーナーまで引き寄せてくるかという技術を学びました。POPを工夫したり、棚の配置を変えてみたり。
その後に色々な書店を転々としましたけど、本が好きで好きでしょうがないっていう人たちよりは、ライトな層の人たちに本の面白さを伝えようと考えていましたね。例えば、『王様のブランチ』で勧められていたから買う、みたいな人も多くて。それくらいの感覚でいいと思うんです。
三浦 本屋と言えば、詩人の文月悠光さんがエッセイで、書店でアルバイトしてるって書いてあったのを読んで、「僕も書店員やりたい!」と思ったことがあって。好きな本屋さんに履歴書を書いて送りました。連絡まったくなかったですけど(笑)。
まあ、アルバイトしながら演劇もやるって履歴書に書いたから、募集要項と全然合わなかったのかな。長年演劇だけをやっていると、浮世離れした作品ばかり作ってしまって、日々の生活のことを描けなくなるんじゃないかと思って。社会に出ないままずっと演劇続けるのもいいけど、一回ちゃんと働いた上で脚本を書いてみたいと思ったんですよね。
2022.04.10(日)
文=土佐有明
写真=橋本 篤