「江戸に誘う3冊」木ノ下裕一

 “三浦くんを江戸に誘う”をテーマに選んでみました。

 まずは『ちくま日本文学032 岡本綺堂』(筑摩書房・写真は旧版)。綺堂は明治末から大正、昭和と活躍した江戸っ子の作家で、『修禅寺物語』や『番町皿屋敷』など歌舞伎作品も多く残しています。父親が英国大使館に勤めていたこともあり、アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」を原著で読んだのをきっかけに、代表作『半七捕物帳』の発想を得たりと、前近代と近代、日本と西洋、両方の価値観を持っているのも面白いところ。両時代の間(あわい)みたいな部分が、実に魅力的なんです。江戸の感覚と近代的な感覚に翻案しているといいますか、現代人の私たちをうまく江戸的なるものへ誘ってくれます。この、ちくま文庫版は小説、戯曲、随筆と幅広く収録され、しかもどれもが珠玉。杉浦日向子による解説も名文です!

 次は明治生まれの評論家、安藤鶴夫の『落語国・紳士録』(平凡社)。アンツル先生(安藤鶴夫)は古典芸能の世界では有名な批評家で、かつ直木賞作家。この本はいわば落語の登場人物名鑑のような一冊。「あの人物がもし現代に生きていたら、こんなことを喋ったのではないか?」「この人の生い立ちはこうじゃないか」なんて、もとの落語にはない想像も多分に含んでいて、今でいう二次創作ものとして読んでも面白いんです。聞き書き的に書いているところもあれば、一代記風にまとめたりと、いろいろな手法も駆使している。僕自身、この本の現代版を書いてみたい気持ちもあります。

 最後は高橋克彦『浮世絵鑑賞事典』(KAODOKAWA)です。三浦くんは現代のサブカル、ポップカルチャーを横断して表現されている方じゃないですか。じゃあ「江戸のサブカルは何かな?」と考えた時に、パッと浮世絵が思いつきました。江戸時代の人々は浮世絵を箱にまとめておいて、鑑賞するときは膝の上でめくって眺めていたらしいんです。美人画、役者絵、双六、風景画……これを、グラビア、推しの写真、ゲーム、旅行写真などに置き換えてみれば、おそらく現代人がタブレットの画面をスライドしながら眺める感覚に近いんじゃないかなと。この本は代表的な浮世絵師をカラー図版とともに紹介しています。浮世絵の技法など鑑賞に役立つ基礎知識もしっかり入っているので、初心者でも気軽に楽しめる構成になっています。文庫サイズで持ち運びも便利、僕はこの本を浮世絵の展覧会には必ず持って出かけています。

2023.09.14(木)
文=川添史子
撮影=増永彩子
編集=船寄洋之