この記事の連載
アレッツォ・散策 #1
アレッツォ・散策 #2
アレッツォ・散策 #3
ルネッサンスを彩る重要人物たちが行き交い、確かな爪痕を残したアレッツォ。
あまたある教会やミュージアムを訪れれば、薫り高い文化の面影に触れることができる起伏に富んだ魅力的な街を散策し、中世へと迷い込もう。
アレッツォに訪れたら、是非立ち寄りたい教会やショップ、レストランなど7軒を3回に渡りご紹介。
偉大な文人を輩出し名画の舞台となった古都

ミケランジェロは、自らの弟子に当たるジョルジョ・ヴァザーリに、こう書き送った。
「私の人生において、注目されるべき何ほどかの才能があるとするならば、それは、子どもの頃に吸い込んだアレッツォの空気が育ててくれたものだろう」

人類史に大きく名を刻むかの天才が実感したほどに、中世のアレッツォ一帯は、進取の気風に溢れていた。ゆえに、綺羅星のごとき偉人を次々と輩出する。
愛の抒情詩を歌い上げ、人文主義に先鞭をつけたフランチェスコ・ペトラルカ、絵画の世界に初めて遠近法を持ち込んだ夭折の画家、マザッチョ、そして、メディチ家黄金時代のフィレンツェにおいて、現代につながる都市のグランドデザインを手がけた万能人、ヴァザーリ……。

アレッツォは、イタリア映画でありながら米アカデミー賞の作品賞にもノミネートされた名作『ライフ・イズ・ビューティフル』のロケーション撮影が行われた土地としても知られている。
坂が多く起伏に富んだ旧市街は、確かにスクリーンに映える。その最たるものが、勾配を帯びたグランデ広場。『ライフ・イズ・ビューティフル』でも、観る者に鮮烈な印象を残していた。

古都の街路を散歩しながら、映画の世界へと思いを馳せたり、ルネッサンスの時代へとタイムスリップしたり。そんな遊びに興じてみるのはいかが?
500年以上前にミケランジェロが吸った清新な空気は、きっと、21世紀の今もこの街を満たしているはずだから。

2023.09.11(月)
文=下井草 秀
撮影=橋本 篤
コーディネート=大平美智子
CREA Traveller 2023 vol.3
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。