「蛙化現象」という言葉が若者たちの間でにわかに流行りだした。関連ワードをふくむ投稿はSNS上で多く見られ、Z世代を研究するシンクタンク組織「Z総研」の発表した「Z世代が選ぶ2023年上半期の流行語ランキング」では全体(n=950人)の54%を占める回答率で1位を獲得。もはや社会現象ともいえる勢いだ。

 そもそも蛙化現象とは、好意を抱いている相手に好意を持たれると嫌悪感を抱くようになってしまうという心理学用語。グリム童話の『かえるの王さま』にちなんで「好きな人」が「生理的に苦手な人」に一変してしまう様子を表している。

 ただ2020年ごろからは交際相手などのふとした一面を見て幻滅してしまうといった意味で使われることも多く、近年の流行語としては後者の用法で認識されているといえそうだ。

 ちょうどその過渡期に前者の意図で蛙化現象を丁寧に描いた漫画が発表された。その名も『カエルになった王子様』(講談社)である。

 主人公である高校生の三橋ハルは、入学式に助けてもらってから憧れていた志城トーマに告白され付き合いはじめるも、なぜか大好きなはずの彼のことを気持ち悪いと感じるようになってしまう。

新しい用法が広まることで傷つく人が増えるかもしれない

 作者の我楽谷さんも実は蛙化現象の経験者。「我楽谷さんは、次回作を恋愛ものにすると決めたあとで描けるかどうか不安になったらしいのですが、蛙化現象というものを知り、『これをテーマにしたら経験を活かして実感を持って描けるかもしれない』と思ったそうです」(担当編集)

『カエルになった王子様』を発表してからは、そのリアルな描写に「私も経験したことがあります」といった声が集まったそう。

「今は蛙化現象というとネタっぽい使われ方をされているのをよく見受けますが、悩んでいる方も多いので、我楽谷さんは後発の意味合いで言葉が広まってしまうことで傷ついてしまう人がいるんじゃないかと心配していました。

2023.09.06(水)
文=浦田 みなみ