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トップスターや下級生の力を借りて皆で作り上げた宙組
――寿さんは組長という立場を長く勤めていらっしゃいましたが、その統率力や組子からの信頼感は私たち観客から拝見しても素晴らしかったと思います。そのマネジメント力や組織をまとめる極意を教えていただけますか?
組長になってすぐの頃はダンスナンバーなど、皆と一緒に踊る場面にも多く出ていたんです。いきなり下級生からポーンと組長になるわけではなく、少しずつ、下級生だけの場面の一番長となり、次に新人公演の一番上の学年になり……と、学年を重ねていく延長に“組長”があるんです。
最初の頃は「組長だから全部ちゃんと完璧にしないと」とか「ミスしないように皆をまとめないと」という気持ちがあったのですが、それが却って空回りになってしまうこともありました。
空回りしているという自覚はあったので、そこは皆と相談することにしたんです。皆の意見や力を借りることによって、もっともっと大きなことができることに気付きました。80人近くいる中で、下級生をまとめてくれる子、中間の学年をまとめてくれる子……。そういうのが宝塚のシステムの素晴らしいところです。それにすごく助けられました。
――それぞれが役割を持って、組を支えていっているんですね。
何よりも音楽学校の2年間のシステムがあるからこそ、この大人数がまとまるのだと思います。私の力というよりは、あの2年間で基礎的なところ――芸や志、上下関係などを学ぶので、皆が同じ方向を向いてまとまることができるんです。
ずっと宝塚を観てきて、ファンとして入って来た子たちがほとんどです。彼女たちはそういった制度も含めて全部憧れになっているんですよね。本当に私の力ではなく、宝塚という体制が私の組長人生をサポートしてくれたと思います。
――宙組はなかでも和気あいあいと楽しそうな雰囲気の組に思います。下級生もしっかりと個性を出せる環境は寿さんのお力があってこそだったと思います。
宝塚は個性が大切な世界なので、それぞれの力を存分に発揮してほしいし、それを発揮しながらも同じ方向を見て、求められる表現ができるように、というのを意識していました。
一人ずつをちゃんと見るように、というのも忘れないようにしていました。よく「今の若い子は……」なんて言葉を聞きますが、宝塚ではそんなことはありません。入りたての下級生の子からも学ぶことは多いですし、それぞれの考え方がありますから、そういう言葉で一括りにはできないです。
上級生にも足りないところはたくさんありますし、経験を重ねているからこそ、見えないこともあるんです。若い子たちだからこそ、柔軟な考えを持てることもあるので、まとめるというより、日々“学び”でしたね。
――80人というのは大きな組織です。組長としてそのトップに立つのは大変でしたよね。
やはり最終的には誰かが声をあげないといけないわけですから、代表として声をあげるのは私の役目でした。
本当に学びしかなかったです。学びと気づきと、自分の反省と……。そのときのトップの子や上級生と相談しながら、周りの子の力を借り、問題をシェアして皆で方向性を考える。毎回起きるトラブルも違いますし、作品もまったく違うしメンバーも違う。状況によって皆で考えていくようにしていました。
本当に、皆の力があってこそ勤め上げることのできた、組長というポジションだったと思います。
2023.08.22(火)
文=前田美保
写真=佐藤 亘