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美也子は性格が私と正反対なんです

堀田 職人というより、「青木美也子」というキャラクターを演じることが難しかったです。美也子は性格が私と正反対なんです。たとえば、冒頭で美也子が完成した箸を届けるシーンがあるんですけど、内向的な美也子は、相手の目を見て話をしません。相手との距離感や、動きの緩急のつけかたなど、美也子を演じるのは難しかったですね。今回美也子を演じたことで、自分の中の演技の幅が広がった気がしています。

――漆を塗る工程は、実際に地元の職人から津軽塗の技法を教わって撮影に挑んだと聞いています。リアリティを出すために、監督からは演技についてどのようなリクエストがありましたか?

堀田 監督からは、あまり役にとらわれすぎずに演じていいと言っていただきました。ですから、「職人を演じる」というよりは、「職人になる」というか……。無になって、ただひたすら塗っては研ぐ、ということを繰り返していたように思います。

――セリフがなく、研ぎ出しと塗りの音だけで構成されたシーンでは、同じく漆塗り職人の父・清史郎を演じた小林薫さんも堀田さんも、どちらも本物の漆塗り職人にしか見えませんでした。

堀田 ありがとうございます。映画ポスターのメインビジュアルにもなっている、父娘がふたり並んで座って作業しているシーンは、実際に使われている津軽塗の工房をお借りして撮影しました。

 小さな空間で手元に集中して作業していると、「ひたむきに塗る」という映画のコピー通り、本当にひたむきに無心になっていく自分を感じるんですよね。素の自分と「青木美也子」が一体化しているような感覚で、そんなふうにキャラクターと一体化する感覚は今回が初めてだったので、自分でもちょっと新鮮でした。

 小林さんとふたりで作品を制作するシーンでは、私も「津軽塗職人の先輩で、師匠でもある父親から教えてもらう」という気持ちで小林さんに接していたので、私の目から見ても、小林さんは本物の漆塗職人にしか見えませんでした(笑)。

――小林薫さんや木野花さんなど、ベテラン俳優との共演で、プレッシャーも大きかったと思いますが……。

堀田 もちろんプレッシャーはあったのですが、実際に演技をする上では方言が大変で……。もちろん、方言指導の先生にも教わりながら撮影していくんですけど、関西出身の私には、どうしても理解できないところがあるんです。耳で聞いて理解できても、実際に話すとどこか違う。「お父さん、おはよう」と言うだけのシーンも、何回も撮り直して、本当にみなさまにはご迷惑をおかけしました。

 東北弁など寒い地方の方言は、口をあまり開けずに話す特徴があるそうです。なんでもはっきりしゃべる関西出身の私にとって、東北弁の習得が難しいのはアクセントだけの問題ではないのだとわかって、勉強になりました。

2023.08.30(水)
文=相澤洋美
撮影=杉山拓也
スタイリスト=小林 新(UM)
ヘアメイク=小笹 博美