しかも退職金制度設置率が下がり、退職金の額も減少している。

 97年の調査では、退職金制度のある企業の割合は89%、大卒者の定年退職金の平均額は2871万円だった。それが18年には80%まで下がり、平均額は1788万円と、10年間で実に1000万円以上減少しているのだ。

 この会社員にとって辛いニュースでしかない「賃金カーブのフラット化」と「退職金の減少」がなぜ起きたのかと辿っていくと、企業側には「社員を継続雇用する原資を確保するため」という事情があるのだという。

 高年齢者雇用安定法が改正され、13年以降は、企業には「65歳までの定年引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかが義務付けられた。また21年には、その年齢を70歳まで延長することが「努力義務」となったが、今後、「義務」になる可能性が高いと言われる。

 ただし継続雇用においては雇用形態は定められていないため、業務委託、嘱託等に切り替えられ、給料が抑えられる場合が多い。定年前に比べると圧倒的に少ない賃金で、定年前と変わらない仕事をしている人も少なくない。

 しかも、継続雇用の内容は、今後厳しくなる可能性がある。ホワイトカラーの転職を手掛ける、ある女性コンサルタントはこう分析する。

 

50歳を過ぎての転職

「80年代後半から90年代初めに入社したバブル組が、数年後に60歳を迎え始めるためです。人数が多いため、現在の継続雇用制度を維持できるか不安視する声を聞きます。今は1年更新が主流ですが、半年更新になるかもしれません」

 では得意分野を活かして、転職するという選択肢もあるのだろうか。50歳を過ぎてからの転職のケースを紹介しよう。

 大学卒業後、東証プライム上場の大企業に入社した男性(60歳)は、30代で米国に赴任。以後、米国と欧州で駐在を繰り返し、現地法人の責任者まで務めた。55歳の時、部署が閉鎖されたのを機に退職し、5年契約で中堅の同業に転職、今年8月に契約が切れるため就活している。

2023.07.04(火)
文=坂田拓也