もちろん準主役の、透馬の存在も見逃せない。江戸で生れ、職人になろうと思いながらも、しかたなく筆頭家老の後嗣になった透馬。為政者としては有能だが、人として欠けたところのある父親を好きになれない彼は、正近や半四郎と共に、やはり茨の道を歩いていく。正近以上に複雑な性格の透馬だが、信頼できる仲間がいるからこそ、道を誤ることがないのだ。腐れ縁と友情をごちゃまぜにしたような、正近と透馬の関係も、シリーズの読みどころになっている。

 さらに女性陣にも留意したい。清照寺には千代だけでなく、尼になった七緒もいる。前作で正近と知り合った女も、重要な役割を背負って登場する。男のドラマと並行して、女のドラマも書き込まれているのだ。それが互いに響き合い、ストーリーをより重厚なものにしているのである。

 作者は本書で、被災地や罹災者の様子を、克明に描いている。読んでいて何度か、辛い気持ちになった。だが、目を逸らしたくはない。正近や透馬の成長に一喜一憂しながら、作者が物語に込めたメッセージを、真正面から受け止めたい。

2023.06.27(火)
文=細谷 正充(文芸評論家)