だが、別の可能性もある。『飛雲のごとく』の文庫解説を担当した杉江松恋は、二〇一一年三月十一日に起きた東日本大震災が影響を与えたのではないかといっている。詳しいことはその解説を読んでいただきたいが、私もこの意見に同意する。なぜなら本書が、小舞藩を襲った大火――災害からの復興を描いているからだ。東日本大震災ではショッキングな映像が幾つもテレビで流れたが、宮城県気仙沼市などの火災もそのひとつであった。あえて火災を本書の題材としたところに、私は東日本大震災の影響を感じるのである。
さて、本書の内容に触れる前に、シリーズの流れを押さえておこう。物語の舞台になっているのは、小舞藩という六万石の小国だ。二つの名川を有し、水利に恵まれ、高瀬舟を使った交易と川漁が盛んである。
『火群のごとく』では、父親代わりの敬愛する兄を何者かに殺された新里林弥の二年間を見つめていた。背傷を負い、刀も抜かないまま死んだため、臆病者の汚名を被った兄。義姉の七緒への恋心を抱きながら、事件の真相を突き止めようとする林弥だが、何もできない。そんなとき、筆頭家老の三男だという樫井透馬が現れ、徐々に事態が動いていく。道場仲間の死などの悲劇や、兄の死の真相などを経て、林弥は成長していく。
続く『飛雲のごとく』は、もうすぐ十七歳になる林弥が元服する場面から始まる。だが元服したからといって、すぐに大人になるわけではない。『火群のごとく』の一件は後を引き、林弥や透馬は、再び騒動にかかわることになる。初めて人を斬り殺したこと。義姉への恋心を断ち切られたこと。父親の後を継ぐという透馬に、道場仲間の山坂和次郎と共に仕えることを決めた林弥は、厳しい大人の道へ足を踏み入れる。
という展開を経て、本書『舞風のごとく』である。「オール讀物」二〇一九年十一月号から二〇年十二月号に連載。単行本は、二〇二一年十月に刊行された。物語は、小舞藩城下の五分の一から四分の一を焼いた、大火の場面から幕を開ける。
2023.06.27(火)
文=細谷 正充(文芸評論家)