「プリンス・ヒロ受け入れの利益を強固にする」イギリス政府が若き天皇陛下の留学に秘めた“思惑” から続く

〈常に青春の貴重な思い出として、時間、空間を超えて鮮やかによみがえってくる。〉今上陛下が回顧録『テムズとともに』(紀伊國屋書店)でご回想された楽しみに満ちたオックスフォード大留学時代。そこには英国政府のある思惑があった――。

 徳本栄一郎氏の著書『エンペラー・ファイル天皇三代の情報戦争』より一部加筆して抜粋。今月ご成婚30周年を迎えた陛下が40年前、お過ごしになった英国での日々を辿る。(全2回の2回目/前編を読む)

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オックスフォード大学で中世テムズ川の水上交通史を学ぶ

 英国の作家、ジョン・ル・カレの小説に、「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」というのがある。舞台は東西冷戦下、引退生活を送る元英国情報部員、ジョージ・スマイリーに、密かに呼び出しがかかった。MI6(英国情報局秘密情報部)の上層部に、ソ連の二重スパイ「もぐら」がいる。その裏切り者を見つけ出して欲しい、という。

 この中で、スマイリーが、大学都市オックスフォードを訪ねる場面がある。戦前、彼は、ここの学生で、テューターと呼ばれる指導教官から、「ロンドンに知り合いがいるが、会ってみないか」と言われたのを思い出す。じつは、知り合いはMI6で、教官もタレント・スポッター、人材発掘人だった。

 テューターは、学生を教えながら、相手の知性や性格、政治信条をじっくり観察する。そして、情報機関に向くと見れば、推薦するが、受けるかどうかは本人次第だ。ここが、長年、インテリジェンスの世界に人材を供給してきたのを示す。

 そして、今から40年前、オックスフォードで学んだのが、若き日の今上天皇、浩宮だった。

 1983年6月、学習院大学を卒業した浩宮は、オックスフォードのマートン・カレッジに留学した。一般学生と寮生活をしつつ、欧州各地も訪ね、これほど長期間、皇族が海外に出るのは異例だった。

2023.06.21(水)
文=徳本 栄一郎