中国と韓国で印象的なのは、「小学生で『君の名は。』、中学生で『天気の子』を見て、いま高校生で『すずめの戸締まり』を見に来ました」とか「どの作品も違う彼氏と見ました」といった声が多いんです。小学校、中学、高校、大学と、10代の各ステージに僕の映画がリンクしていて、3年に1回のイベントのようになっているんだなって。「いくつのときに『君の名は。』を見て、いまは高校生です」とか「いまは大学生です」みたいな話をしてくれるファンが、どちらにも多いんですよ。

ーー人生で最も多感な時期に作品を見てもらって、その後も追ってもらえるのは監督冥利に尽きますね。

新海 そうですね。でも、彼らにはそうした作品がきっとほかにもいっぱいあるんですよ。僕自身もかつては宮崎駿さんの新作をずっと待っていたし、『風の谷のナウシカ』の原作なんて何年も待ちました。その間には『機動戦士ガンダム』なども見ていたし。そういう昔の僕のような状況で、大きなお祭りとして捉えてくれるのは嬉しいですし、そうなったのも作品を作り続けてきたからだなと思います。

 あと、作品の打ち出し方についてはうちの会社(コミックス・ウェーブ・フィルム)の方針もあって。「海外のアニメのマーケットは必ず大きくなっていくから、いきなり興行などを大きくやらずに、まずはファンの方たちと丁寧に向き合うことからはじめていこう」と。これは僕ではなく、社長の川口(典孝)や海外担当の人間の判断だったんですけど、結果的に良かったと思います。

「東日本大震災」というテーマの受け止められ方

ーー『すずめの戸締まり』は、東日本大震災が大きなテーマになっています。そこを中国と韓国の観客は、どう受け止めていると感じましたか?

新海 僕はどの国でも上映後の舞台挨拶に出たときに、海外の観客のみなさんにいろいろなことを話すんですが、そこで、2011年に実際に起きた東日本大震災がこの作品のベースにあることや、東北地方を地震と津波が襲って住んでいた場所に住めなくなった人がたくさんいること、すずめのような人たちが本当にたくさんいることを伝えるんです。すると、それを聞いた瞬間に「え、そうだったの!?」と観客のみなさんが息を飲んでいるのがわかるんですよ。

2023.06.09(金)
文=平田裕介