希望した席に座れない日は登園拒否していた
――多くの人は、既存の職業になりたいものがないと気づいたとき、諦めて折り合いをつけて、今ある選択肢の中で選択をしがちだと思いますが、秋本さんは気持ちにブレがないのですね。
幼い頃から「やりたいことはやるけど、やりたくないことは一切やらない子供」だったみたいです。たとえば、幼稚園バスに希望している席があって、そこに座れなかったらもうその日は幼稚園に行かない、とか。また当時、亀が大好きだったんですが、「亀の甲羅を背負わないと幼稚園に行きたくない」と言い出して、本当に変な話ですけど親が段ボールで亀の甲羅らしきものを作ってくれて、それを背負って通園していたそうです。迷惑をかけていたと思いますが、人に危害を与えないうちは親も先生も許してくれました(笑)。
――周囲の温かい理解があったんですね。「働き方をどうにか紡ぎ出していけば、一年中山にいられる」とおっしゃいましたが、山岳パトロール、動物の調査、歩荷、など色んな仕事をパッチワークのように組み合わせるイメージですか?
はい。始めてみると、山の作業者ってそんなに数多くいるわけじゃないので、働き手が見つからなくて困っている人が、日本各地にいることに気がつきました。北アルプスや八ヶ岳などの大きな山には、その地域の文化を継いだ山岳ガイドや登山家の方いますが、国土の7割が山林の日本で、全国の山に豊富な働き手がいるわけではないんですよね。近年は防災の面でも、沢山の山仕事が生まれています。
秋本真宏(あきもとまさひろ)
1991年静岡県生まれ。中学を卒業後、化学者を志し5年一貫教育の沼津高専物質工学科に入学。
高専生のときに長野県の木曽駒ヶ岳の登山で山に目覚める。その後、信州大学農学部森林科学科に編入し、日本各地の山を学ぶ。大学卒業後は、木材の会社に就職するもまもなく退社。山に関する様々な仕事を経験するため個人で活動を続け、2021年、株式会社「山屋」を設立。
https://yamaya-corporation.com/
2023.06.03(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵