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大学を出て飛び込めるような用意された進路はない

――実際に山で働く人を訪ね歩いても、山の仕事がわからない。

 はい。多分、山界隈でいま一番、光が当たり始めて、職業として扱われているのが猟師ですよね。ただ、これも本当に職業と思ってやっている人がどれくらいいるのか、というゆらぎの中にあると思っていて。山には様々な仕事がありますが、未経験の人が大学を出て飛び込めるような、用意された進路はないんですね。どうやって始めればいいのか、果たしてそれを続けて生活できるのかは、かなり不透明でした。実際にやってみれば、山仕事に就く方法は色々あることもわかるのですが、当時は一部のすごく能力がある人、超人的な人だけが、山で生き残っているイメージを抱いていたんです。

――たしかに、登山家などはなりたい人がなれるものではないイメージがあります。それでも就職活動をして、木材の会社に就職できることになったんですよね。

 はい。日本の山に登って、山の木を選ぶ「選木」という仕事があり、面白そうだなと思って入社しました。ただ、しばらく研修を受けた後、会社の方針で僕は家の設計をする部署に配属になって。「選木」はベテランの方や専門の方だけがやる職だったんですね。「働きながら勉強して、建築士を目指したらどうだ」と言われて、「あれ?」と(笑)。人生ってやっぱりうまくいかないものだと思いました。

――本配属が決まってすぐに退職の意思を伝えられたそうですが、「山の仕事に就かせてあげるから」と引き留められるようなことはなかったのですか?

 有難いことに引き留めてはいただいたんですが、選木は選ばれし人のみが出来る職業なので、選木をやらせてもらえるということはなくて。そんなことも知らないうちに進路を選んでいた自分の責任で、会社は全く悪くないのですが……。会社のみなさんにはとてもよくしていただいて、その時も「本当に山でどうやって生きていくの?」と心配していただきました。

2023.06.03(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵