美少女戦士セーラームーンは、美少女なのかそれとも戦士なのか。日本のアニメは性的消費なのか、それともエンパワメントなのか。

 その両面が混じり合う時代を生きてきた三石琴乃たちアイドル声優第一世代は、一概に断じることのできない、その光も影も知っている。

「セーラームーンの読者層の4割が男性だったことに驚いた」という当時の担当編集者小佐野氏の言葉には続きがある。21世紀にリメイクを制作した時、戻ってきたファンは9割が女性だったのだ。

 ファーストペンギンという言葉は、魚を求めてサメがいるかもしれない危険な海に飛び込む最初の一匹を表現した言葉だ。声優界のアイドル化という荒波に最初に飛び込み、今また大河ドラマに挑む三石琴乃も、いつか後に続く後輩たちのために言葉を紡ぎ始める時が来るのかもしれない。

「声帯って一番老化しにくい器官らしいんです」「おばあちゃんになるまでこの仕事を出来れば良いなと思っています」

 前出の前田久氏のインタビュー記事で三石琴乃はそう語る。何年先のことであれ、男性にも女性にも届くキャラクターを演じてきたその声が、いつかファンに向けて自分の生きた時代を語り残し、未来に向けてメッセージを語る時が来るのかもしれない。

 いつかその時、「世界で最初にセーラームーンになったうさぎ」が語り始める言葉には、おそらく世界中に仲間を増やした月野うさぎたちが声をあげて答え、あらゆる世代の葛城ミサトが微笑んで頷くことだろう。

2023.05.22(月)
文=CDB