スー 新卒でレコード会社に入社し、その後転職して音楽業界には9年勤務しました。アーティストの宣伝を担当していたので、今も本名の私がジェーン・スーを担当しているような思考になります。

 有働 本名の自分から見てジェーン・スーはどんな存在ですか。

 スー 担当した中で一番言うことを聞く存在ではあります。

 有働 じゃあ扱いやすい?

 スー ただ、瞬発力とか天才性がないので、積み上げていかないとダメなタイプだなと思っています。

 有働 人前に出る仕事だと、現実に目をつぶって自分の才能を信じないとガックシきちゃって続けられなくないですか。

 スー 才能がない自分に落胆することは全然ないです。そもそも期待値が高くないですから。担当する人が一番輝く方法で売り出すのがレコード会社での仕事だったので、ジェーン・スーに関しても「自分という冷蔵庫の中にあるストックで夕飯を作ればいい」と割り切っています。

 有働 なんと客観的で潔い!

『おつかれ、今日の私。』を読んで思ったのが、自分では客観視できない・したくないことを、スーさんが言語化してくれているということ。しかも「みんなそうだから大丈夫よ」と肯定してくれるような感覚があって、自分で自分を認められる気持ちになる。この本は意識的にそういう方向性にされたんですか。

 スー そうですね。収録されたエッセイ48篇は主にコロナ禍で連載したもので、社会のムードによって疲れた人がたくさんいるのを体感していた時期でした。デビュー作を書いた頃は時代がまだ元気だったので、半分自虐で強めに言い切っても読者にダメージを与えなかった。けど今は時代の強度が下がっていると思うんです。

 有働 時代の強度?

 スー はい、時代の感受性というか。今はボロボロになった友達を慰めるような書き方でないといかんなと思って、自分を労るような感じも含めて意識的に書きました。

 

「行き遅れギャグ」で炎上?

 有働 スーさんの時代認識には、激しく頷いちゃう。実は、スーさんとは5年ほど前の女子会でお会いしたことがあります。私、その頃まで自虐ネタが鉄板だったんです。4年制大学を出てNHKに入ってレギュラー番組を持ってとなると、恵まれすぎて見えるがゆえに自虐も必要だったというか。

2023.04.28(金)
文=ジェーン・スー、有働由美子