菊池寛夫人は女性トラブルを暴露

 ここだけ切り取れば、菊池寛はとても開明的で立派な人物ということになりますが、一方で、芸者や女優などとの浮名も数々あり、没後、夫人が女性トラブルについて「文藝春秋」に暴露したという一面もありました。

門井 たしかに、ルーズと言えばルーズな面もあったと思います……。私は菊池寛を取り巻く女性たちについて、下の図のように理解しています。

 彼の周りには三極の女性がいました。

 ひとつは、包子(かねこ)夫人に象徴される伝統的な、家庭内を取り仕切る女性。

 もうひとつには、芸者や女優といった伝統的な仕事ではあるけれど、家庭の外、社会の中で仕事をこなす女性。

 最後が、石井桃子のように社会のなかで、モダンで新しいタイプの仕事をする女性です。

 彼は大正・昭和という時代にあって、どのタイプの女性も否定することなく、等しく付き合った。これは当時、なかなかできることではなかったように思います。菊池寛の人間としての幅の広さ、器の大きさを象徴しているようにも思います。

 まぁそれでも、女性にだらしないところがあったのは、否定できないのですが(笑)。

門井慶喜(かどい・よしのぶ)

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2016年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞。著書に『家康、江戸を建てる』『ゆけ、おりょう』『東京、はじまる』『地中の星』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』など多数。

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2023.04.20(木)
文=第二文藝編集部