コアラが寝てばかりいるのには理由がある

 オーストラリアの動物というと、まっさきにコアラが思い浮かぶが、大陸ではユーカリの森が減少し、彼らの棲息地は減る一方。そんな個体の生存危機をよそに、この島のコアラは増え続けている。

 ところで、コアラが寝てばかりいるのには理由がある。毒性の強いユーカリの葉を主食とするコアラは、解毒するためのエネルギーを蓄えるべく、生涯のほとんどを眠って過ごさなければならないのだ。他の動物が食べられないユーカリを糧として選んだのは、厳しい自然界で生き残るための知恵。つまり、眠ることは、生きることでもあるのだ。

至近距離まで近づいても、起きる気配なし

 コアラが初めてこの島にやってきたのは1920年代のこと。毛皮目的の猟で絶滅寸前となっていたコアラを保護するべく、大陸から島に持ち込まれた18頭が繁殖を続け、3万頭にまで増えたのだという。

 ユーカリが豊富に茂り、天敵もいないこの島は、彼らにとって楽園そのもの。ところが、大量のコアラがユーカリの葉を食い尽くし、生態系に影響を及ぼすようになってしまったから大問題だ。そこで政府が考えた苦肉の策が、メスを捕獲して避妊手術を行い、繁殖をコントロールするというもの。一頭ずつとらえては手術をし、術後のコアラは番号付きのタグを耳につけ、再び森へと返す。一部は本土へ移送もされるという。優雅に見えるコアラも、多難の歴史を歩んでいるようだ。

 ほかにも、海ではイルカやアシカ、夜の海岸ではリトル・ペンギンなど、この島では多くの野生動物と出会うことができる。公共交通機関のない島を巡るには、アデレードからのツアーに参加する以外は、島でレンタカーを借りるか、レンジャーが4WDで案内するツアーかの、いずれかを選ぶことになる。おすすめは断然、レンジャーの案内によるツアー。島に暮らし、自然と生態系を知り尽くす彼らとともに野生動物を観察しているうちに、私もすっかり自然の虜になってしまった。

海岸でペリカンに餌付けをする通称「ペリカンおじさん」は、海の生態系を研究している水族館の館長さん

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト www.serizawa.cn

Column

トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート

大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!

2013.12.03(火)
text & photographs:Kazumi Serizawa