世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第10回は、芹澤和美さんがオーストラリアで堪能した動物三昧の旅をご報告。

カンガルー島は本当にカンガルーがいっぱい!

 カンガルー島は、“野生動物の宝庫”といわれるオーストラリアの生態系を、さらにぎゅっと凝縮したような場所だ。大陸からは目と鼻の先(南オーストラリア州の州都アデレードからフェリーで45分)にあるのだが、わずかに隔てた海は潮流が速く、人も動物も容易に渡ることができなかったため、開発や外来種の影響を受けることなく、オーストラリア固有の生態系が保たれているのだという。

島に到着したのは太陽も傾き始めた夕暮れ時。まっさきに遭遇したのはカンガルー! 夜行性の彼らは、日中は森に潜み、夕方になると活発に動き始める

 東京都の約2倍の面積に、4600人の住民と、カンガルーにコアラ、ペンギン、アシカ、イルカなどなど、人の数をはるかに超える野生動物が暮らすカンガルー島。期せずして、半年の間に2度、この島を取材する機会に恵まれた。もちろん、取材テーマは「野生動物に出会う旅」。なんだかワイルドでハードな旅を想像してしまうが、実際に訪れてみると、野生にかぎらず、そこかしこで可愛らしい動物たちに出会える、とても優しい島だった。

 愛嬌たっぷりのカンガルーが暮らしているのが、パンダナ野生動物公園だ。ここは、交通事故で怪我をした野生動物や、親を失った動物の子どもを保護する施設。子どものカンガルーが保護されている柵内に入ると、たちまち数頭がピョンピョンと寄ってきて、おやつをおねだり。そのうちの一頭が、ドライフードを乗せた私の手を両手でしっかりと包み込んで、「ください」とばかりに、つぶらな瞳でじっと見つめる。カンガルーと手を握り見つめ合ったのは、これが初めてだ。やがて、温かい手で私の手を握りしめたまま、おいしそうにパクパクとドライフードを食べてくれた。

訪れた人の手をしっかりと握り、「おやつ、ちょうだい」と悲哀を感じさせる顔でアピール

 動物ばかりの島だが、島内では、ワインやオリーブオイルも生産している。オリーブオイルのショップを訪れると、ここにもかわいいカンガルーの子どもが。まるで飼い猫のように籠の中ですやすやと眠り、店の奥さんが近づくと、ちょっと甘えた仕草をみせる。「野生の子なんだけど、母親と離れて迷子になっていたの。寝床を用意して餌をあげているうちに居ついちゃって。いずれ森に帰してあげたいけれど、今はうちのベイビーよ~」と、店のマダムは目を細める。

飼い主(?)によると、いずれは自然で生きる訓練を受けさせ、森に帰すのだという

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2013.12.03(火)
text & photographs:Kazumi Serizawa