クワン それいいよね(笑)。ヴォネガットはシニカルでニヒリスティックです。彼は「人間の言動は脳内の化学的反応の結果にすぎず、そこには何の意味もない」と言います。でも、そんな絶望のなかでさえヴォネガットは、親切、つまり人情に最後の希望を見つけ出す。それを僕らは『エブリシング~』でやってみたんです。絶望があるから希望もあるんです。

シャイナート 闇があるから光が見つかる。絶望のなかで人は本当に大切なものを見つけ出すんです。『エブリシング~』で、最初、娘の言う「何もかもどうでもいい」は絶望の言葉だけど、最後にエヴリンは「何もかもどうでもいい」と言って娘を抱きしめます。「あなた以外は何もかもどうでもいい」と、この映画はそこにいたるまでの旅なんです。

――ジョーダン・ピールとは交流がありますか? 彼はSFやホラーのオタクですが、それを彼の黒人と白人のミックスとしてのアイデンティティと絡めていく。

クワン ジョーダンを尊敬しています。彼の『ゲット・アウト』(17)のビジネスとしての成功が、僕らみたいな映画への道を拓いたから。先日、『NOPE/ノープ』(22)のプレミアで初めて会ったんですよ。

シャイナート ジョーダンとは映画についていっぱい話しました。彼は破天荒でオリジナルでルールを無視した映画を作って成功しました。だから僕らもアジア系アメリカ人のための物語を作ろうとしたんです。ルールや期待を破って、大胆不敵にヘンテコな物語をね。

ダニエルズ 1988年生まれのダニエル・クワンと、1987年生まれのダニエル・シャイナートによるコンビ。多数のミュージックビデオ、CM、短編映画に始まり、10年以上もの間、映画やTV番組の脚本・監督を手掛けてきた。2016年、ポール・ダノとダニエル・ラドクリフ主演の『スイス・アーミー・マン』の脚本・監督を務め、サンダンス映画祭最優秀監督賞を受賞した他、数多くの映画賞にノミネートされ、カルト的な人気を得る。その後、ダニエル・シャイナートが『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(19)の監督を務める。

2023.03.24(金)
文=町山智浩