ひとり暮らしのモモがドアを開けると、〈こんばんは 泊めてもらえませんか〉と問いかける猫がそこにいて……。
モモは、猫の的確なアドバイスで、焦がした餃子をラザニア風にリメイク。それを機にルームメイトとなった猫から指南を受け、モモは料理の腕を劇的にアップさせていく。
『ねこの手キッチン』(文藝春秋)は、ふらりやって来たモフモフ猫と、手軽で美味しい料理レシピがコラボレーションする猫マンガだ。
著者は『うちの猫がまた変なことしてる』(KADOKAWA)を始め、数々の猫マンガで人気の卵山玉子さん。作品が生まれたきっかけや、卵山さん自身の猫ライフが気になる!
「アクを取らなかったら?」「マズくなります」
――帯文を見たとき、あざといと思ってしまったんですよ。「可愛い猫と美味しいごはんを組み合わせるなんて!」と(笑)。ところが、そんな先入観を払拭する、猫愛に満ちた感動作でした。もちろん、レシピと絡めたストーリーも楽しいです。
卵山 「うれしい感想をありがとうございます」
――なんと言っても、モモとルームメイトになるネコ助のキャラクターの愛らしさにつかまれます。ネコ助に、卵山さんがこれまで一緒に暮らしてきた猫のエピソードなどは投影されていますか。
卵山 「身ぶりやすることに関しては、やはり自分が見てきた飼い猫のそれですね。料理に関する発言に関しては、レシピ監修の田中優子先生のアドバイスをベースにしてる部分が結構あります。たとえば、私がアクを取らなかったらどうなるのかという質問を先生にしたことがあるのですが、バッサリ〈マズくなります〉っておっしゃって。ポンと出るテンポとかが面白くて、そういうのをネームに反映させてもらったりしていますね」
――キャラクターデザインはどうですか。モフモフした感じや、毛並みの白とオレンジのバランスとか、こういう猫がツボだと思う読者がいそうです。
卵山 「ネコ助は、主人公にしたことがないタイプの見た目にしようと思って、結構早めに長毛のモフモフした感じとか模様は決めた気がします。私はもともと子どものころから猫が好きで、実家の猫がネコ助みたいに大きな猫だったんです。9kgくらいあったので犬に間違えられたりして。その記憶で、心惹かれる猫の基準がかなり定まったようです。そういえば、その実家の猫も母の後を付いてきて、ネコ助のようにちゃっかり居着いたんですよ。もっとも、似ているのはぽってりした見た目だけで、ネコ助と性格はまったく似てないです」
――人間語を話せる猫という設定は、猫好きにとって夢のようですよね。しゃべる能力を持たせようと思ったのはなぜですか。
卵山 「しゃべらないと物語が進まないので、それはすぐ決めたんです。その場合、能力の根拠をどうしようかなと担当さんにも相談しながらいろいろ案は考えたんですね。ネコ助は実は妖怪だからとか宇宙から来たとか。でも、しっくりこなかった。それに、いちばん描きたいのが猫の可愛らしさとごはんですし、私の読者さんたちが求めてるのも半分以上は“猫”だろうというのもあって、最後は『マンガだから許されるよね』で通すことにしました(笑)。モモは、猫を飼ったことがないキャラクターにしたので、部屋にどんどん猫グッズが増えていくとか、そういう飼い主あるある描写は積極的に入れました」
――どういうところを意識して、猫の可愛さを表現されているんですか。
卵山 「やはり猫好きが共感してくれそうな猫らしさは大切にしています。私自身が『こういうときの猫がたまらない』と思うようなしぐさやクセをネコ助にさせているところはありますね。あと、ネコ助がやるせない気分のときやドキドキ緊張しているときに、自分のお腹の毛をちょっとぎゅって掴むところが好きなんですよ」
2023.03.17(金)
文=三浦天紗子