大村 鍛えはじめるのに遅いということはないからね。

 巽 崑さんは筋トレを始めて4年でウエストを15センチも絞られたんですね。でも、崑さんの変化で最も大事なのは、頭の位置です。今は頭が骨盤の真上にあるけど、以前は骨盤より相当前へ行っていたでしょう。これが一番あかんのです。

 大村 どうあかんのですか?

正しい姿勢を身につける

 巽 骨盤より前に出た頭を支えるために、僧帽筋という背中から首を支える筋肉が引っ張られます。筋肉が緊張することで肩がこるんです。崑さんの肩を触っていいですか……今はものすごく柔らかい。

 大村 昔は出張先で、マッサージさんを呼んで指圧してもらわなかったら寝られなかったほどだったんですよ、肩こりで。それが今はすっかりなくなりました。

 巽 マッサージでこりは一時的に和らぎますが、その原因は解消されていないのですぐ再発します。崑さんの肩こりがなくなったのは、原因だった頭の位置が良くなったからですよ。骨盤の真上に頭があって、脊椎はきれいにS字カーブができている。90代というのが信じられへんほどです。

 大村 ジムのトレーナーが、壁を使って姿勢を整える方法を教えてくれたんです。後頭部と肩甲骨とお尻の3点を壁につけるんです。

 巽 壁によりかからず、3点だけ壁に触れるように立つわけですね。

 大村 僕は家でもよくこの方法で1〜2分立って、横から鏡でチェックしています。最初はそっくり返ったように見えるけど、これが正しい姿勢だと刷り込むわけです。講演の時には必ず楽屋の鏡で確認して。

 巽 さすがですね。

 大村 呼ばれたらそのままの姿勢で舞台に出ていきます。歩き方は、かかとで歩いてつま先で伸びる。この歩き方、子どものうちはみんなできているけど、大人になるとつま先で歩くようになりますね。

 巽 それも頭が前に出て、前傾姿勢になっているせいです。バランスを取るために腰が後ろに引けて、骨盤が後傾してつま先から着地する。僕は「ニワトリ歩き」と呼んでいますが日本人に多いです。歩けなくなる入り口です。

 大村 僕も危なかった。85歳まではそういう歩き方でした。

俳優・コメディアンの大村崑氏、一宮西病院整形外科部長の巽一郎氏による「『100年筋肉』を鍛えよう」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年3月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

2023.03.18(土)
文=大村 崑,巽 一郎