25年前に産声をあげたキタロー村

 村長によると、今から25年以上前、この私有地にバイク部品などの大型のゴミが勝手に捨てられるようになった。しばらく様子を見ていたがゴミがゴミを呼ぶのか、軽トラック2台分ほどまで増えてしまった。困った村長は、大きなヤマザクラの木にツリーハウスを建て、監視カメラを置くことを思いついた。

「私、もともと大工だったの。だから仕事を引退してから、コツコツと自分で手作りしたんだよ」

 ツリーハウスが2000年ごろ完成すると、ある日、近所の小学生の女の子が水木しげるの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる「鬼太郎の家みたい」と喜んだ。「その言葉に感動してね。ここを『キタロー村』と名付け、秘密基地のようにしてみなさんに利用してもらえたらなって」

 何だかいい話ではないか。それ以来、村長は「キタロー村」づくりに没頭する。翌年、村長の奥さんが好きな札幌の時計台を模した小屋を建てると話題になり、遠くから人が見にくるようになった。小屋を増築したり、ドラム缶風呂を作ったりと、進化を遂げたのを機に「ネオ・キタロー村」に改名した頃から、メディア取材が殺到。話題になったこの村には多くの人が訪れ、なんと8組の男女がここで出会い、結婚したという。

特技は耳占い

 怒涛の開村ストーリーを相槌を打ちながら聞いていたら、村長は突然、何かを思い出したかのように、編集K氏の耳を褒め始めた。実は耳たぶ占いや手相が特技らしい。

「K君! あなたは粘り強い。でも叩かれるタイプだから必ず落とし穴が待っています」

「えっ!? 落とし穴?」

「手相も見せて。うん、あなたはハートがいい。何かの形でギャラもついてくる」

「ギャラ? いや、僕、会社員なんで…」

「いい話もありますよ。ちょっと前だけど、4人組の若者たちが訪れて、『今、無職なんだけど何をやればいいか、占ってほしい』って。それで、『食べ物が合ってるよ」って言ったの。そしたらね、ラーメン屋はじめて一年間で一億円! 村長、ありがとう! って」

「一億円!?」

 私は村長に自分の耳たぶを見せて「私もギャラは増えますか?」と期待いっぱいに聞いてみたが、「そうでもないけど、大丈夫!」という微妙なお答えが返ってきた。

2023.03.11(土)
文・写真=白石あづさ