まさかの閉村宣言

 ところで、今は誰も訪れる人はいないようだが、コロナ以降、閉めているのか。すると驚きの答えが返ってきた。

「もうね、ここは閉めるんのよ」

「えっ!?」

「指先に負けたんです。私ね、占いする時につい人の手とか肩を触っちゃうの。それでセクハラってネットで書かれて孫に申し訳なくて。『ちゃんと相手に断らないとダメじゃないか!』って子供に怒られたけどあとの祭り。私はずっと大工やってきて昔は腕の時代だったけど、今はミサイルでもスマホでも指先1本の時代だから」

 村長はしんみりと語る。それに82歳なのでいつ死ぬか分からないし、身辺をきちっとしておきたい。子供達に迷惑はかけられない。もう老朽化して危ないから解体して自然に戻したい、と。

「この間、作業中に落っこちて大けがもしちゃって。まあ、これが俺の人生です。俺のハートで……このハンマーで毎日、毎日、このキタロー村を壊している」

「なんと、まあ……」

「ああ、いろんな思い出があります。半田市のトラックドライバーの男性は、キタロー村にたくさんの廃材を持って来てくれたの。それでいろいろ建てたんです。でもその人、若くして病気で亡くなって、奥さんが小さな石像を持って来てくれた。ほら、それを私が門の脇に祀っているの」

「それで石像の家も作ったんですね」

「そう、このトーテムポールは村を守ってもらおうと思って、モアイさんみたいな顔にしたんだよ。そしたら、娘が『お父さん、モアイ島、連れて行ってあげる』って。結局、イタリアに行先が変更になったけど、楽しかったなあ」

 最初は不気味に思えたモニュメントたちであったが、ひとつひとつに村長の思い出や想いが宿っていることを知る。

「メディアの人もたくさん来てくれてね。探偵ナイトスクープなんて2回も来たんよ。マツコ・デラックスさんの番組も、あとは蛭子能収や有田哲平さん、ジョーブログっちゅう金髪のユーチューバーさんは、『愛とロマンがありますね』ってねえ……ああ、みんなどうしているのかね」

「ここがなくなるのはさみしいですね」

「うん。だから、あなたたちCREAさんが最後のメディアなの」

「え、うち!?」

「キタロー村は完全閉鎖です。みんな、キタロー村を愛してくれてありがとう!! そう書いておいてくれよ!」

 そう言って、村長は「今日はふもとでマラソン大会やっているから、見にいくっちゃ~」と山を去っていった。愛知の山に忽然と出現し、突然、終わりを告げた「ネオ・キタロー村」。現代のベルエポックとして訪れた人々の心に残り続けるに違いない。我が道を進んできた村長、いつまでもお元気で!

白石あづさ

ライター&フォトグラファー。3年に渡る世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。Twitter @Azusa_Shiraishi

Column

白石あづさのパラレル紀行

「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきたライターの白石あづささんが、旅先で出会ったニッチなスポットや妙な体験談をご紹介。

2023.03.11(土)
文・写真=白石あづさ