大きかった「女将さんの存在」

 食べながらコロナ禍の近況を聞いてみた。大介さんによると、コロナが蔓延し始めた2020年の夏頃はまだ売上げも2割減くらいで推移していたそうだが、その後の2021年に近づくと7割減位まで落ち込んだそうだ。アルコールも提供しておらず夜間の営業もないので補助金の支給は限られ、厳しい経営が続いたそうだ。現在も2~3割減とコロナ前には程遠いという。

 女将さん(大介さんのお母さん)の近況を訊くと、大介さんの顔が少し曇った。そして2021年11月に病気で亡くなったことを告げられた。週1回位のペースで通っていた2010年頃、午前中に行くと女将さんがいつも対応してくれた。女将さんは当たりの優しい口調で話し上手だった。いつも冗談を言ったり、大好きな北島三郎の話を聞かせてくれた。仕事でへこんでいた時などにずいぶん励ましてもらい大変お世話になった。喘息持ちでお店に立たなくなった2016年以降も、食材の下準備などはずっと続けていたという。

「亡くなってから1年位はバタバタというか、店の営業も家族のメンタル維持も厳しくて本当に大変だったんです。母の存在は大きかった」と大介さん。

続けて「えびかき揚そば」も注文

「いかかき揚そば」をあっという間に食べてしまったので、「えびかき揚そば」(520円)を追加注文した。こちらもすぐに登場した。干しえびと玉ねぎのかき揚げでこちらもシンプル。食べ進むうちにホロホロとほぐれていき、えびの香りがつゆに広がっていく。

 大介さんはしみじみと話を続けた。「2代目(父)が引退したら、店を続けることは無理だと思います」という。

 

「今は2代目がつゆの仕込み、天ぷら作りなどをひとりでこなしています。自分が午後の接客や裏方をすべてやっています。ひとり欠けても存続はむずかしい。それと、立ち食いそば屋の創業当時から身内だけで営業してきたので、人を雇って営業を続けるのは今となっては無理です」

2023.02.16(木)
文=坂崎仁紀