「皇后陛下は、一首一首、歌が読み上げられる度、作者へ温かい眼差しを注いでいらっしゃいました」

 そう振り返るのは、若山牧水賞など、数々の受賞歴を持つ歌人の小島ゆかりさん。1月18日、皇居の宮殿・松の間で行われた「歌会始の儀」に召人(めしうど)として参加した。

「召人とは天皇陛下に指名されて歌を詠む人です。陛下や皇族方にとって歌の相談役である『宮内庁御用掛(ごようがかり)』の意見も踏まえ、毎年1名が選ばれます」(元宮内庁職員・皇室解説者の山下晋司氏)

「一昨年に思いがけずお話をいただき、光栄ながら大変驚きました」という小島さんの背を押したのは、当時、御用掛を務めていた篠弘氏(昨年末に逝去)だった。

「『今より更に“開かれた皇室”を目指したい』という両陛下のご意向を汲んで、若い世代にもお願いしたいのだと仰っていました。といっても66歳ですが(笑)、歴代の召人はわたくしより高齢の方が多いので、なるほどと思いました」(小島さん)

雅子さまがスッと振り向かれて“お心遣いの一言”

 今年の歌題は“友”。小島さんは「旧友のごとくなつかしあかねさす夕陽の丘に犬とゐる人」と詠んだ。

「お題から、コロナ禍や戦争で不安な日々のなか、“身近な心の交流”を大切にしたいというお気持ちを感じました。天皇陛下ご一家は愛犬の由莉を大変慈しんでいらっしゃるので、ぜひとも『犬』を入れたいなと。両陛下にとって愛おしく親しみ深いものを詠うことで、招いていただいた喜びをお返ししたいと思ったのです」(同前)

 儀式の後には謁見の時間が設けられている。陛下から「どんなお気持ちで作られたのですか?」と訊ねられた小島さんは、想いの丈を伝えたという。

 

「マスク姿ながら『ああ!』とお顔を綻ばせてくださったのがわかりました。愛犬やわたくしの飼っている猫の話で盛り上がりまして、皇后陛下も大きな御目にとても柔らかい微笑みを浮かべていらっしゃいました。お話を終えて次の方へと移られる際もスッと振り向いて『お座りになってください』と声をかけてくださいましたし、歌会でも作者のお辞儀に必ず応えておいでで……皇后陛下の深いお心遣いに感動いたしました」(同前)

2023.02.14(火)
文=「週刊文春」編集部