数学の魅力の一つは、社会に出たときにだまされなくなること
――作品を通して数学に触れてきて、改めて感じることはありますか?
絹田 こういうインタビューを受けると、インタビュアーから「私は数学ができないんですけど」という前置きが必ず出るんです。でも、これまでいろんなテーマを漫画で扱ってきたけれど、経験上そういう前置きがあるのって数学だけなんです。
知識がある・ないなら、知識を得ればいいだけだけど、数学は知識があっても「わからない」と突き放される残酷さがある気がするんです。理解できる保証はないというか。それがまざまざと突き付けられるのがつらいなって。
――確かにそうかもしれません。絹田さんが考える数学の魅力って、どんなところですか?
絹田 数学の魅力ってきっとたくさんあるけど、一つは、社会に出たときにだまされにくくなることではないでしょうか。マルチビジネスをネタにしたこと(第21話/4巻収録)もあるんですけど、本質をとらえて理解できるから相手を論破できるんですよね。
――横辺くんがマルチビジネスにひっかかりそうになる話ですね。
絹田 この話は、読者からの反響も大きかったです。「これまでうまく言い返せなかったけど、すっきりした」という感想をいただきました。
ほかにも漫画を読んだ方から「いつも数学がわからなかったけど、今回は漫画を読んで理解できた」と感想をいただいたりして、私も嬉しいです。
大学数学を学んできた方々は、「間違えずにエンタメに落とし込んでいるな」と優しい目で見てくださっているのではないでしょうか(笑)。そういう感想に力をいただきつつ、今後もコメディ漫画を描き続けていきたいですね。
研究も深くなって、それぞれが何をしているかわからなくなっていく
――読者にぜひ読んでほしいシーンはありますか?
絹田 いっぱいあるんですけど、第1話だと、主人公の横辺くんが、「自分はわかっていなかったんだ」ってショックをうけているところですね。微分積分学の講義って、京大生でもくじける方が多いらしいです。
それから、女子大生と河原で飲み会をするシーン(第6話/2巻収録)も、横辺くんが自力で初めて数学を理解する転換期なので、気に入っています。
――今後の読みどころを教えていただけますか。
絹田 キャラクターが院生になったので「院生あるある」を描いていきたいです。研究も深くなって、それぞれが何をしているかわからなくなっていくので、楽しみにしていてください。
絹田村子(きぬた・むらこ)
9月24日生まれ。奈良県出身。『月刊flowers』(小学館)2008年9月号でデビュー。代表作に2017年にドラマ化された『重要参考人探偵』や『さんすくみ』がある。自画像の頭の葉は、デビュー当時の髪型・おかっぱボブと形が似ていることから決めた。
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2023.03.09(木)
文=ゆきどっぐ