新シリーズの制作にあたり、衝撃的な第1シリーズとどう差別化していくか、そのフォーマットを継承しながらどう新しさを打ち出していくか、知恵を絞った。そこで掲げたのが、「人間ドラマ」ということだった。前シリーズが歴史の表舞台を淡々と描いてきたのに対して、新シリーズでは、歴史を動かしてきた主役や脇役たちに焦点をあて、人間ドラマを通して歴史の深層に切り込んでいきたいと考えた。

 人間ドラマというのは、たとえばこういうことである。新シリーズの第1集で第一次世界大戦を描くにあたり、主人公としたのは、イギリスの情報将校、アラビアのロレンス。彼のアラブへの裏切りがいかに現在に至る火種を蒔いたのか。第2集で取り上げたのは、1920年代狂乱のアメリカ。そこでスポットを当てたのは、石油で財をなしたロックフェラー家である。その強欲がいかに世界に資本主義を広げていったのかを描こうとした。

続編の宿命を乗り越えて

 しかしながら、ふたを開けてみると、なかなか厳しい批判が寄せられた。「淡々としたナレーションが持ち味だったのにナレーションが押しつけがましい」、こたえたのは、「この20年間にNHKの制作能力がいかに衰退したのかを示している」という指摘だった。

 実際20年前のシリーズを担当した河本哲也さんに、「新・映像の世紀」の第1集放送後に感想を聞いたことがある。

「20年ぶりに懐かしい店に入ったのに、カレーの味が違っていたということなんだよ。番組の良し悪しとは関係ない。それが続編を作るということの宿命なんだ」

「『映像の世紀』制作秘史」全文は、「文藝春秋」2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

2023.02.12(日)
文=寺園 慎一