「私は、宇宙人ポジションだったからこそ同調圧力に流されてしまう人が気になる」

 6編の読み心地がバラエティーに富んでいるのも本書の魅力だ。埋め込まれているトピックは、アニマルライツやミソジニー、ブラック労働、そしてキャンセルカルチャー。どれも現代的で興味をそそる。男性を語り手に据えたことや、アクション要素をたっぷり加えたことなどは初めての試みだ。

「デビュー作が女性主人公だったこともあり、女性キャラクターを書く作家だと思われがちですが、いざ男性キャラを書いてみたら面白くて。依頼人の女性に勝手に恋心を募らせていく「動物裁判」の弁護士さんのようなタイプは、『ああ、こういう人いるよね』というサンプルが日本にはいっぱいあるので。彼がひとりで盛り上がってゆくさまを「ふふふ」と笑いながら書きました。

 4編目の「健康なまま死んでくれ」では、俺の方がちょっとまだイケてると自信を持ったり、若者になんもわかってねえなと思ったりする語り手となるおじさんの微妙なマウンティング心を想像してみたり。味わったことのない心情を、自分と違う人になって追体験するのはわくわくしました。

 もっとも、架空の法律がバカバカしいほど、それを笑って終わらせるわけにはいかないというか、ゲラゲラ笑って読んでいても最後にちょっと身に詰まされるみたいな話を書いて、読者の心に何か残したいという気持ちはありますね」

 これまでの新川さんらしさがよく出ているのは女性ならではの閉塞感やそこからのサバイバルが描かれた2編め「自家醸造の女」や最後の1編「接待麻雀士」だろう。

「私自身がルールが苦手で、集団行動できない子どもでした。共同体が持ってる規範にみんなはすっと入っていけるのに、私だけ空気が読めない。たまたま成績が良かったので、周囲からは変わってる子扱いで、平和な宇宙人ポジションを取れたのは幸いでした(笑)。実際、わたしは同調圧力をほとんど感じない人間なので、圧力に流されてしまう人が気になるんですね。だから、そういう女性たちをよく出してしまうのかもしれません」

2023.01.28(土)
文=三浦天紗子
写真=佐藤亘