連続テレビ小説「まれ」などで注目を集め、女優として活躍する・柊子(しゅうこ)さんのデビュー小説『誕生日の雨傘』が8月10日に発売された。
タイトルにもなっている「誕生日の雨傘」をはじめ、収録されている4作品はいずれも生きている中で感じる逡巡といった部分を鮮やかに書き上げている。その悩みと向き合い、抱えながら前を向くことを選ぶ主人公たちはどこか自分たちの姿と重なる。
初小説を書き終えたばかりの柊子に話を聞いた。
小説の登場人物に自分を重ね合わせ過ぎないように意識しました
――誰もが感じる、振り返ってみれば、なんでそんなことに心を奪われていたんだろうという出来事。そんな青春時代や学生時代に家族や友人など周囲の人たちと向き合い、苦悩する登場人物の姿が描かれていて、読んでいてハッとしました。最初に書かれた作品は「誕生日の雨傘」ですが、テーマはどのように決められたんですか。
編集の方に「女友達」をテーマに書いてみませんか、と言われて。その時思い浮かんだのが中学校時代でした。当時の教室の景色だったり、匂いだったり、雨の日のけだるい感じだったり、鮮明に思い出すことができて。作品は自分の実体験というわけではないですけど、女の子同士のいざこざというか、スクールカーストみたいなものは私の学生生活の中にもあったので、その見てきた世界を小説にしてみようと思いました。
――「誕生日の雨傘」の夏美をはじめ、他の3本の短編もキャラクターは違えど、主人公たちはそれぞれの立場で悩んでいる姿が描かれていました。
女の子に限らないですが、人それぞれ容姿も声も全部違うものですし、当然、性格や考え方も違います。なので、それぞれがしっかりと自立した人間であるようにはすごく意識しました。その上で主人公たちの人生を描いていこう、と。
私は俳優をしているのですが、人物像を掘り下げる時に役作りの経験が活かされた部分もあったように感じます。一人ひとりの髪型や、好きな食べ物、アイドルは誰推しだろう……。自分が演じる役と向き合う時と同じように、ディティールを掘り下げていくように心がけました。
後、意識したことは、自分を重ね合わせ過ぎないことですね。どうしても気を抜くと自分の性格が登場人物に入ってきてしまう。女の子たちの生き方はそれぞれでなければ、リアリティも損なわれていってしまう。学生時代に見ていたあの子のことを思い浮かべたりして、なるべくふり幅を大きく、物語に奥行きをもたせるようにしました。
私は梨沙子のように、カーストトップにいるようなタイプではなかったので、第二章の「じゃない方のマスカラ」の真奈とか第三章の「鏡の中のあめ玉」の梨沙子とか、クラスの上のグループの子を主人公に書いている時は特に新鮮な気持ちでした。
――自分が歩んでこなかった世界線の物語の面白さというか。そうすると、一番愛着があるのは夏美になりますか?
そうですね、夏美に一番思い入れがあるかもしれません。でも、一番好きというか愛着がある作品は第四章であり、つむぎですね。
実は第四章の「魔法のバスケット」は一番難産というか、書き始めるまでに時間がかかった作品だったんです。はじめは夏美の目線で作品を書いていたんですが、なんだかしっくりこなくて。その後、夏美の子ども目線で書いたらどうだろうというアイディアが浮かんで、彼女の子どもであるつむぎを主人公に据えたらスッと進むようになって。夏美が少しでも報われてほしいと思っていましたし、夏美を元気づけてくれるつむぎのことが大好きになりながら書いていました。
『誕生日の雨傘』の中でどの作品が一番好きですか? と聞かれたときに「魔法のバスケット」です、と答えたらつむぎも喜んでくれるかなって思いますし、そういう意味でも印象に残る作品ですね。
――逆に、やっぱりこのキャラクターは好きになれないな、とかそういったところはありましたか?
書いていて、やっぱり真奈は狡いなとか思っていました。学生時代ああいう子いたなって(笑)。どっちにも良い顔をして世渡り上手な子というか、器用な生き方が出来るのは素直に羨ましいです。
でも、さっき自分と重ね合わせないように、と話しましたが、書くことでそれぞれの人生を追体験したような気もするんです。そういう意味では自然にそれぞれのキャラクターに私のどこかが出てしまっているかもしれないし、元々自分とは違うと思っていた真奈とか梨沙子みたいな部分が私の中にもあったのかもしれない。それは初めての感覚でしたし、小説を書くって面白いなと感じた部分でもあります。
2022.09.10(土)
文=CREA編集部
写真=今井知佑