『元彼の遺言状』『競争の番人』が2期連続月9ドラマになるなど、大活躍をされている作家・新川帆立さん。ファン待望の新作は、本人にとっても悲願だったというSF作品です。法律、そしてSFという装置を用いて社会に切り込むことの意義、そして新しい挑戦をし続ける彼女の執筆スタイルなどを伺いました。
考えつくした架空の法律で社会の「当たり前」を問う
2020年にミステリー作家の登竜門『このミステリーがすごい!』大賞(宝島社主催)で大賞を受賞。翌年1月にデビュー作『元彼の遺言状』が発売されるや否や、出す新刊が次々とベストセラー入り。新川帆立さんは、そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの注目作家だ。作品をジャンルでくくれば、解くべき謎が出てくるので広義のミステリーではある。だが、新川さんの小説がなぜ面白いかと言えば、社会の不条理と闘う熱き女性たちの活躍が小気味いいから、ではないだろうか。
「意識的に書こうと思ってるわけではないのですが、自分にとってある程度切実な問題じゃないと、深く書けないと思うんですね。現実認識として、女の人が負担を被りがちとか、社会で軽んじられがちというのを見聞きしたりする体験が積み重なってる分、そういう不条理や社会問題などがついつい顔を出してくるなとは思ってますね」
最新刊『令和その他のレイワにおける健全な反逆』は、もしこんな法律があったら……という想像力が光る、リーガルSF短編集になっている。
「収録した6編それぞれ、架空の法律を土台にした世界を描いたものではあるのですが、まったくの絵空事というわけではないんです。たとえば、1編めの「動物裁判」で取り上げた「動物福祉法」を作るには、民事訴訟法の何条と何条を改正しないとこの法律はできないな、とか。
5編目の「最後のYUKICHI」は、金融庁がマネーロンダリング対策班を作る設定にしていて、マネロンは刑事犯罪だから警察庁も協働所管に入れてくれと絶対言ってくるだろう、通貨は財務省の所管だけど現金が廃止された後では財務省はモノとしての通貨には興味がなくなるだろう、など、考えたことをあれこれメモしました。
実際に作中で書くような情報でもないので、本当はそこまで考えなくてもよかったかもしれないのですが、背景をきちんと組み立てて『この世界は成立しうる』と思えるところまで徹底的に考えないと、自信満々で書けないんですよね。憲法と法律の関係や、この条約はどうなってるのかなど、縦横無尽に詰める思考実験も、私としては楽しかったです」
その甲斐あって、どの短編も現実とオーバーラップするようなところがあり、ユニークで風刺が利いている。
「海外に住んでいると、「最後のYUKICHI」みたいなキャッシュレス社会化が進んでいて、日常生活で現金をホントに使わないんです。アメリカで1年暮らしたときは、渡米前に両替して持っていった200ドルが、帰国するときに190ドル残っていました。確かコインランドリーで、どうしても硬貨が必要で使っただけ。なので、いずれ日本もそうなるでしょうし、わりに現実味もある話を書いたと思うんです」
2023.01.28(土)
文=三浦天紗子
写真=佐藤亘