死神のような姿が見える“闇”、ポップな絵柄が目を引く“光”
今展の会場は、空間が大きくふたつに分かれた構成となっている。前半の「闇エリア」と、後半の「光エリア」。
闇をテーマとしたエリアでは、会場全体が暗くなっており、黒に塗り込めた壁面に大小さまざまな絵画が、スポットライトを浴びて浮かび上がる。描かれるモチーフは多種多様なれど、死神のような姿が見られたり、心象風景をなぞったのかドロリとした形態だけが表面に残る抽象的な画面があったりと、ズシリと重みある表現が多い。
一転、光のエリアは、まばゆいばかりに明るいライティングが施され、ポップな絵柄の作品がところ狭しと配置される。両者のあまりに激しいギャップに驚かされてしまうのだが、この意図についても香取慎吾本人の言葉を聞こう。
「香取慎吾という人物は幅広く活動させていただいていて、その結果、本当にいろんな顔を持っているなと自分でも思います。そこには光の部分も闇の部分もある。『アイドル・慎吾ちゃん』としているときは、下を向いている姿なんて見せないわけですけど、絵を描くときはひとりなので、明るい面じゃないものを発散させることだって当然あるし、そういうときのほうが気に入った絵を描けたりもします。今回は思い切って、そういう闇の面が出た作品も含めて、すべてを観てもらおうと決めました」
体系立てられた美術教育を受けていない香取が放つ唯一無二の独創性とは?
少年時代から芸能活動に邁進してきた香取慎吾は、体系立てた美術教育を長年にわたり受けてきたわけではないだろうが、そんなことはまったく問題じゃない。止むに止まれぬ表現への欲求を大きな武器として、いつでも絵を描いてきた蓄積が、香取慎吾に独自の作風をまとわせている。いわば「叩き上げ」の強さと自由さが、香取作品の見どころとなっている。
同時に各作からはバスキア、ポロック、ミロ……。過去の偉大な画家たちの要素を読み取ることもできる。よほどのアート好きで、浴びるように多くの作品を観続けており、それらを創作の糧にしているのだろうことも感じさせる。
ニッポンのポップ・アートの一形態を、渋谷駅前の会場でまとめて観られるとは、なんとも希少な機会である。
INFORMATION
「WHO AM I -- SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR --」
12月7日~2023年1月22日
渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールA
2023.01.06(金)
文=山内宏泰