12月9日、フィギュアのグランプリファイナル・ペアで三浦璃来・木原龍一組が優勝。ぺアでは日本初の快挙に、互いを固く抱きしめ涙が止まらなかった。強豪のロシア等が不在で本命と目された大会。木原は「初めてプレッシャーと闘う経験をしました」と語ったが、涙の意味はそれだけではない。

「日本の弱点」「お荷物」と言われることさえあった

 男女シングルと比べ、ペアは圧倒的に競技環境に恵まれない。中継も満足にされないほど国内の注目度は低く、競技人口や指導者も少ない。練習場所にも苦労するのが常で、結果として国際大会でも好成績が残せない悪循環に。五輪の団体戦で「日本の弱点」「お荷物」と言われることさえあった。

 2014年ソチ、18年平昌の両五輪代表の木原は、そんなペアの評価の低さを身をもって味わってきた。日本代表の会見ではシングルの選手にばかり質問が集中、囲み取材で記者が集まらないこともあった。だが評価を覆したくても成績で跳ね返せない。しかも19年には練習中に自身が負った脳震盪のため世界選手権などの大会の欠場を余儀なくされ、失意は深まった。当時のパートナーとの関係も解消し「自分にはペアは無理かも」と引退を考え、リンクでスタッフとして働く日々を過ごしていた。そのときオファーしてくれたのが、同じくパートナーとの関係を解消し、次を探していた三浦だ。

 

技を試した瞬間、100%呼吸が合った

 出会いは衝撃的だった。後に「言葉では表せない相性」と木原が表したように、初めて技を試した瞬間、100%呼吸が合ったと言う。スケーティングのタイプも、スピードのある演技が好みな点も共通していた2人は、いつしか「璃来ちゃん」「龍一君」と9歳差を感じさせない息の合ったペアになっていった。「合わせているんじゃなく合うんだよね。ぶつかっても一緒に改善できる」と三浦は語っている。

演技テーマに込めた「2人だからこその強さ」

 日本を離れカナダに拠点を置く2人の一番の試練はコロナだった。ロックダウンで練習も移動もままならず三浦はホームシックでふさぎこんだ。救ったのは木原だ。ドライブに誘い、テレビゲームを一緒に楽しむ中で三浦は気持ちを立て直した。木原は言う。

「2人ともすごく辛い時期を乗り越えてきて気持ちを共有できるので、全ての試合を楽しめます」

 今季のプログラムのテーマはショートが「人間は1人では歩いていけない」(木原)、フリーが「自己犠牲愛」(三浦)。北京五輪、そして今大会と、2人だからこその強さを証明してきた。3月の世界選手権(埼玉)では、かつてない大注目を浴びることになるだろう。

2022.12.27(火)
文=「週刊文春」編集部