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 吉田鋼太郎さんが演出、ならびに2役の出演を務める舞台『ジョン王』が12月26日(月)より開幕する。本作は、2020年に緊急事態宣言のため中止になってしまった舞台の満を持しての上演となっており、吉田さんをはじめとするカンパニーの強い思いが公演に結びついた。

 また、『ジョン王』は初代芸術監督の蜷川幸雄さんのもと始まった彩の国シェイクスピア・シリーズのトリを飾る1作でもある。シリーズ2代目芸術監督に就任した吉田さんにとって、特別な上演となるに違いない。

 CREA WEBでは、稽古が始まったばかりという吉田さんに前後篇でインタビューを実施。前篇では、シェイクスピア作品の魅力、そして本作『ジョン王』の楽しみ方についてを語っていただいた。

» 後篇「シェイクスピア作品は俳優の新たな一面を解放する。誰も見たことのない吉田鋼太郎と小栗 旬をご覧あれ」を読む


『ジョン王』は痛快な分かりやすさが魅力の作品

――『ジョン王』の上演、おめでとうございます。シェイクスピアの中でも地味な作品とされる本作ではありますが、稽古をしている今の吉田さんから見た『ジョン王』の面白さから、お聞かせください。

 ちょうど今、立ち稽古に入ったところで。実際に「声に出して読むとやるとでは大違い」というところが、この作品にもありました。

 『ジョン王』においては、複雑で入り組んだ感情を持っている人物というのが、なかなか出てこないんです。その辺が地味というか、これまであまり日本での上演頻度が少ないことにつながっているかもしれないんですけどね。

 その代わり、非常に痛快な分かりやすさがあります。出てくる登場人物のほとんどが、自分の主張を饒舌に相手にぶつけるという。それが前半のほぼすべてを占めているので、やっていると大変面白いです。痛快ですよ。

 また、それぞれのキャラクターがはっきりしているのも特徴です。王、かつての王の未亡人、王の母親、私生児…それぞれ立場と考え方が違いますし、押し付けあったり、反発しあったりしていきます。キャラクターが多彩だということは、俳優たちにとっては演じがいがある芝居じゃないかと思うんです。稽古をはじめてみて分かってきたことがたくさんあります。決して地味な芝居ではないですよ(笑)。

――失礼しました! 一度、2020年に緊急事態宣言で中止になった本作ですが、2年半という時間を経て上演できることになりました。当時とは演出プランも変えられたそうですが、具体的にどうなっていったんでしょうか?

 『ジョン王』は遠い昔の、遠い国の歴史や戦争のお話です。それをどうやって、日本人の現代のお客さんに見せればいいのかと考えたとき、2020年の段階では寓話性を持って、戦争を少しデフォルメして見せようかなと考えていたんです。

 しかし、この2年半の間にがらっと変わりましたよね。戦場の現場の映像が毎日のようにテレビで流されると、決してもう他人事ではないし、デフォルメとしては語れないんじゃないか、描けないんじゃないかという思いが強くなりました。

 だからと言ってどうやって描けばいいかというところは…メッセージはきちんと伝えたいのでなかなか難しいんですけれども。…とにかく一番大きく変わったのは、デフォルメして見せようと思っていたことを止めて、とても身近なことだとお客様の肌で分かっていただけるような演出に変えたところですね。

2022.12.19(月)
文=赤山恭子
写真=松本輝一
ヘアメイク=吉田美幸
スタイリスト=尾関寛子