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田辺聖子さんみたいな本を書いてほしい

酒井 息子が継ぐと、父への反発が生じるケースが多いのかもしれませんよね。娘は、異性ということもあって父親に対して反発の前に理解をしようとする。大塚家具を除き、ですが(笑)。

 酒井さんのお父様は出版社勤務でいらっしゃいましたが、そういう意味でも、酒井さんが物書きになったことは喜んでいらっしゃったんじゃないですか?

酒井 直に伝えられたことはないですが、喜んでいたようには聞いています。ただ、私が書くものの内容が父の意に沿っていたかというと甚だ疑問で……。父は母に「田辺聖子先生みたいな本を書いてほしい」と言ったことがあるそうで(笑)。品があってユーモアがあるものを、という。

 酒井さんの作品だってそうじゃないですか!

酒井 でも、最初に売れたのが『負け犬の遠吠え』ですし(笑)。父としては複雑な気持ちだったと思います。

 大ベストセラーになって、これで娘も出版業界で生きていけるだろうと、きっと安心されたはずです。

酒井 そうだといいのですが。『負け犬の遠吠え』が売れた時に父はすでに病を得ていたのですが、亡くなった時にあの本をお棺に入れるかどうかは悩みました(笑)。

 入れたんですか?

酒井 結局、入れてしまいました。あちらでゆっくり読んで、と(笑)

2022.12.15(木)
文=文藝春秋第二文芸編集部
撮影=鈴木七絵