令和の父娘関係は、茨木のり子型?
酒井 石垣りんさんや辺見じゅんさんと対照的に、ずっと良好な父娘関係だったのが茨木のり子さんですよね。茨木さんの場合は父親をとても敬愛していて、彼女と父親の関係は、現代の若い父娘関係に近い感じがします。今時の娘達は本当に父親と仲が良くて、なんでも喋る子が多い。父親とハグできちゃう感じ、というか。私たちの世代とは隔世の感がありますね。
梯さんとお父様も、なんでも話せる関係性だったのでしょうか。
梯 いえいえ、全く。30代で初めて父と海外旅行に行ったのですが、その時に「お父さんってこんな人だったんだ」と知ることが多かったです。トルコの遺跡で足元にまとわりついてきた猫を抱き上げた父を見て「猫が好きだったんだ」とか、飛行機の座席のモニターでずっと地図を見ている父を見て「私と同じ地図好きだったんだ」とか。もともと口数の少ない人だったこともあって、それまで父のことはよく知りませんでした。
その後、自分が戦争関連の取材を多くするようになり、父と同世代で境遇の似た方々の話を聞くなかで、父も同じだったのかな、とずいぶん迂回したルートを通って父のことを知れるようになったと思います。
酒井 そうなんですよね。私も父が亡くなった後に、自分は父のことをまるで知らなかったなと、痛感しました。私の父は昭和5年生まれなのですが、生前のある日、「お父さんは軍国少年だったからな」と言われてひどく驚いたことがありました。もっとその辺りのことなど、きちんと訊いておけば良かったと思っています。
梯 やっぱり娘の場合、母との関係の方が大きい問題になることが多くて、それに比べれば父とのことはどうしても後景に退くようなところがありますよね。
酒井 先ほどお話ししたように、生前は父と語り合うようなことは少なかったのですが、没後はよく、仏壇に語り掛けてみたり(笑)。いなくなってからの方が、素直に自分の心をさらけ出せるようになりました。
2022.12.15(木)
文=文藝春秋第二文芸編集部
撮影=鈴木七絵