緊張するたび「役者、向いてねーな」って思ってます

――ここから舞台が続きます。コンディション維持のために何かやられていることはありますか?

 ジョギングですね。走る時間は決めてないですけど、毎日やってます。先日まで日比谷の日生劇場に出ていたんで、走ってからそのまま劇場入りしたり。めちゃくちゃいいですよ。以前、『櫓のお七』という体力的にも結構大変なものを歌舞伎座でさせていただいたんですが、先に走っておいたらすっごい楽だったんです。あと、走るとその日のコンディションがわかるんですよ。朝起きてすごくスッキリしていたのに全然走れないときもあれば、その逆もある。それが自分のコンディションのバロメーターになっているというのはあるかもしれないです。

――気分の切り替えとか、息抜きのためにされることはありますか?

 息なんか抜けまくってますよ(笑)。基本的に、何かをやる瞬間、やらなくちゃいけない瞬間以外は抜けきってます。切り替えは、敢えて何かしたりすると、それはそれでノルマのようになってしまいますから、していません。お酒は好きで、人と飲む場も好きですが、ひとりで映画を見たり本を読みながら飲むのは最高の時間だなと思います。

――子役時代から歌舞伎の舞台に立たれていて、歌舞伎俳優になられていますけれど、壁にぶつかったときはどうされていますか?

 時間が待つのをただ待つしかない。そういうときって、この世に存在する何事も役に立たないと僕は思っています。そういうときに何かにすがるのも嫌なんですよ。だから壁にぶつかったら、ぶつかったままです。

――これまでで大きな壁というと?

 この間までやっていたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』も、壁にぶつかりまくっていました。完全に自分の問題なんですけれど、演出家の求めるものがどうしてもできなくて、自分には根本的に何かが欠けているんじゃないか、って落ち込みました。それは結構毎回ですね。

――舞台で拝見していると、むしろ堂々としているようにも見えますが。

 そう言われるんですよね。それがなぜなのか僕にはわかんないんです。ただ、舞台に出ちゃうと、その瞬間を楽しんじゃってる。これは歌舞伎でもそうなんですけど、稽古はめちゃくちゃ嫌いです(笑)。「夢中」は大好きだけど「努力」は大っ嫌い。努力しなくて最高の舞台ができるのが理想ですけど、本番にめちゃくちゃ緊張するから、稽古しないとダメなんです。だからたまに、自分、何やってんだろうって思うんですよ。役者、向いてねーな、って。

――緊張するんですか?

 死ぬほど緊張しますよ。食事も喉を通らないし、緊張しすぎてオエッってなりますし、普段やってることができなくなるくらい。そりゃあ、向いてないでしょ(笑)。でもそれ、血統というか遺伝らしくて、亡くなった十八代目の中村勘三郎さん(※注:右近さんの父親である清元延寿太夫と中村勘三郎さんは従兄弟同士にあたる)も、出番の直前まで手が震えていたとか。でもお客様の前に出た途端、お客さんを沸かせるわけで、僕も割とそっち寄りみたいです。

2022.12.17(土)
文=望月リサ
撮影=平松市聖
スタイリスト=三島和也(tatanca)
ヘアメイク=Storm(Linx)