信仰の道を歩む、高野参詣道町石道(ちょういしみち)

 次にご紹介するのは「高野参詣道町石道」。高野山の参詣道は、「高野七口」と呼ばれるように東西南北から高野山に通じる主要な7つの道がありますが、今回歩いた町石道は、高野山麓の「慈尊院(じそんいん)」から高野山「壇上伽藍(だんじょうがらん)」までのコース。高野山開創の際、弘法大師空海が木の卒塔婆を立てて道標とした表参道です。

 距離は約20キロメートル、標準歩行時間が約6時間30分。一町(約109メートル)ごとに高さ3メートルを超す石造りの五輪塔形の町石が立てられて、壇上伽藍までに180本の町石があります。

 高野参詣道町石道ウォークのスタートとなるのは、南海電鉄・九度山駅。歩き始める前にYAMAPで地図をダウンロードしておきましょう。

 九度山駅から壇上伽藍までは、YAMAPのモデルコースを2ルート使用します。一つは「高野参詣道町石道(九度山駅~上古沢駅)」、もう一つは「高野参詣道町石道(上古沢駅~壇上伽藍)」。

 まずは、「高野参詣道町石道(九度山駅~上古沢駅)」を見ながら進みます。

 町石道を歩く前に、高野山参詣にぴったりの朝食を。南海電鉄九度山駅構内にある“おむすびスタンド「くど」”では、和歌山県の食材を使用した手作りおむすびが食べられます。

 竃と薪で炊き上げられた九度山産コシヒカリのお米を使い、郷土料理のめはりや、南高梅・金山寺味噌・なまりぶしといった、この地ならではの具材の入ったおむすびが多種。コロッケなどのお惣菜や、かつおぶし・味噌・醤油などの調味料まで売られています。電車に乗らなくてもお店に入ることができるので、地元の常連客も多いそう。

 構内に用意された電車の車内のような雰囲気のイートインスペースや、テラスのガーデンスペースで食事ができます。

おむすびスタンド「くど」

所在地 和歌山県伊都郡九度山町九度山123-2 南海電鉄九度山駅構内 
電話番号 0736-20-7553
https://kudo-kudoyama.weebly.com/

 朝食を済ませたら、九度山駅から20分ほど歩き、町石道の玄関口となる「慈尊院(じそんいん)」へ。慈尊院は弘仁7(816)年に高野山を開創した空海が政所として建立した古刹で、空海の母公・玉依御前(たまよりごぜん)が祀られています。

 当時の高野山は女人禁制だったため、息子に会うべく訪ねてきた母公が過ごされたそう。そのためここは「女人高野」と呼ばれ、女性にご利益があるお寺として有名に。子授け、安産、育児や乳がん平癒のご利益を願って、乳房をデザインした絵馬を奉納する女性が後を絶ちません。

 慈尊院の境内にある階段を登ると、「丹生官省符神社(にうかんしょうぶじんじゃ)」があります。119段ある階段の途中には百八十町石が立てられていて、ここが町石道のスタート地点となります。

 丹生官省符神社は、慈尊院と同様に高野山開創の際に創建されており、木造の社殿三棟からなる本殿には、丹生都比売大神、高野御子大神などの神々が祀られています。

 約1200年前、空海の前に高野御子大神が猟師の姿で、白と黒の2匹の犬を連れて現れたそう。この2匹の犬が空海を高野山へ導いたことで、空海が高野山を開創したといわれています。

 そのためこの神社では犬が神の使いとされ、安産、子授け、縁結びといった「御導き」にご利益があるとされています。

 境内からは高野山をはじめ、紀ノ川・和泉山脈などを望めるので、ぜひ訪れた際は景観も楽しんでください。そして、道中の安全を祈願しましょう。

 丹生官省符神社から約90分、町石道と「丹生都比売神社 (にうつひめじんじゃ)」方面の分岐点となる「六本杉」に到着。ここからは一旦町石道を逸れ、丹生都比売神社の参拝に向かいます。

  丹生都比売神社は、丹生官省符神社にも祀られている丹生都比売大神と高野御子大神(たかのみこのおおかみ)を祭る総本社で、高野山を弘法大師に授けたという歴史ある紀伊国一宮(きのくにいちのみや)です。

 丹生都比売大神は、伊勢神宮の御祭神・天照大御神の妹神であり、さまざまな災いを退けて幸せへと導く女神、農業や機織りの守り神とされています。

 日本最大規模となる春日造の本殿四殿や、美しい楼門が見どころで、どちらも国の重要文化財に指定されています。

 丹生都比売神社参拝のあとは、再び町石道に戻るために「二ツ鳥居」を目指します。二ツ鳥居からその先は、YAMAPのモデルコースを「高野参詣道町石道(上古沢駅~壇上伽藍)」に切り替えます。

 百十二町石近くにある「神田地蔵堂(こうだじぞうどう)」は、お昼ご飯を食べたり、休憩をしたりするのにぴったり。お堂の縁側からは広大な田園が望めます。

 六十町石前には、高野山花坂名物のやきもち専門店「矢立茶屋」があります。

 やわらかい薄皮餅に、ほどよい甘さの小豆あんを入れて焼き上げたやきもちは、白餅とよもぎ餅の2種類。ここまで歩いて疲れた体を癒やしてくれます。

 平日は焼き立てが店舗に並ぶ9時30分頃と13時30分頃が狙い目。休日は一日に何度か焼いているそうなので、タイミングがよければ焼き立てに出会えるかもしれません。

 冷凍もできるそうなので、お土産にもおすすめです。

矢立茶屋

所在地 和歌山県伊都郡高野町大字花坂618-1
電話番号 0736-56-5033
営業時間 9:30~17:00
定休日 火曜

 矢立からは登り道に差し掛かりますが、険しい道を歩き抜き高野山の大門に到着すると、その感動もひとしお。大門からは美しい山並みを一望でき、晴れた日には遥か遠くに紀淡海峡や淡路島も眺められます。

 大門は高野山真言宗総本山「金剛峯寺」の西端に位置する高野山一山の総門。ここからが聖地・高野山になります。

 大門から約10分、ついにゴールの「壇上伽藍」へ! 壇上伽藍は、奥之院とともに高野山内の二大聖地といわれています。空海が開創の際に真っ先に整備した場所であり、主要な法会が行われる高野山の中心とされています。

 高野山の総本堂である金堂や、立体曼茶羅を擁する高さ48.5メートルの根本大塔、弘法大師の肖像が収められた御影堂、国宝の不動堂、胎蔵界の四仏が祀られた西塔など、19もの堂塔が立ち並んでいます。

 壇上伽藍を参拝し、空海により表現された曼荼羅の世界を体感してみましょう。

2022.12.15(木)
文=佐藤由樹
撮影=佐藤 亘