ワインが好きで、日々飲むことが日常になっても正直、ぶどう品種や生産地の情報を集めて違いを覚え、自分の好みを探すというのは、なかなかハードルが高いもの。食事に合わせやすく、高すぎることもなく、とびっきりおいしいワインに高確率で出会えるキーワードはないものだろうか? たくさんの情報があふれる現代だからこそ、そんなふうに思ってしまいます。

 「アルト・アディジェ」は、もしかしたら、魔法のキーワードになりうるかもしれません。

アルプスと地中海のかけ合わせがおいしさを生む

 アルト・アディジェは、イタリアの一地域の名前。細長いイタリア地図のいちばん上、最北端に位置しています。オーストリアとスイスの2カ国と国境線を介して隣合っていて、かつアルプス山脈と地中海、どちらにも近いと聞くと、どんな地域なのかがイメージできるのではないでしょうか?

 「山がちな地域ですが、ワイン造りには2,500年もの歴史があります。川沿いにぶどう畑が広がっていて、海抜200メートルから1,000メートルまでとかなりの標高差があるなかで、ワイン用のぶどうが多種栽培されています。世田谷区ほどの広さのエリアに、なんと5,000ものぶどう栽培業者があり、270をも超えるワイナリーがあるんです」と、教えてくれたのは、パレスホテル東京のオールデイダイニング「グランド キッチン」の、チーフソムリエの瀧田昌孝氏。

「アルプスからの冷涼な風がワイン用のぶどう栽培に適した寒暖差を生み、地中海からの温かい空気がふくよかなボディをプラスしてくれます。ほぼ理想的な気候といえます」

 つまり、南と北のそれぞれのワインのよさのいいとこどりができる! アルト・アディジェが、おいしいワインに出合うためのキーワードになりうるのは、この地域性のおかげ。

 また、ぶどう品種は、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ(ピノ・グリージョ)といった国際品種が多く栽培される一方、とくに赤ではイタリアらしい土着品種もあります。小さな地域ながら、豊富な品種が育てられ、多様な味わいを生むのに一役買っているのです。

 「長年、赤ワインの製造が主体の地域でしたが、近年は、白に力を入れていてイタリアを代表する白ワインの名産地に育ってきています。当レストランでも、ハウスワインとして、アルト・アディジェのピノ・グリージョを提供しています」と瀧田さん。

 提供を始めてすでに8年にも及ぶといいますから、瀧田さんのアルト・アディジェのワインへの信頼度の高さが伺えます。

2022.10.31(月)
文=加藤郷子