「新聞連載だったので、きっちり綺麗にまとめたいと思って、私の作品には珍しくかなり内容を固めてから書き始めたんですけど、一人一人のキャラクターが強いから、まっすぐ行くって感じではなかったですね。全体としてはこういう風に動かしたいんだけど、キャラクターに強硬に抵抗されるようなこともあって。それぞれ自分のプライドも、譲れない一線もあるし、簡単には折れてくれない。頑固な人が揃っていました(笑)」

 小説の舞台を昭和に設定したことで、新たに見えたものもあったという。

「時代小説を書く人の気持ちが、半分くらい分かりました。今、本当に技術の進歩や世相の変化が著しいので、現代を書こうとすると、書いた途端に古びてしまう。でも、過去に輝いていたものは古びないんですよね。自分が書きたいことを時代をスライドさせて書くっていうのは一つの鉱脈だな、と。そのおかげで、細かいことを気にせず、最後までエンジン全開で突っ走ることができました。ベタかもしれないと思う展開もありますが、ベタってつまり、みんなが気持ちいいツボってこと。皆さんにも気持ちよくベタに酔っていただきたいです」

むらやまゆか/1964年、東京都生まれ。93年『天使の卵―エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞。2003年『星々の舟』で直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞ほか、『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。

2022.10.10(月)
文=「週刊文春」編集部