この記事の連載
- 卵子凍結のリアル #1
- 卵子凍結のリアル #2
- 卵子凍結のリアル #3
- 卵子凍結のリアル #5
- 卵子凍結のリアル #4
「キャリアと出産を両立できるようになる」と注目を集めた卵子凍結。実際に凍結した女性、出産に至った女性が語った「現実」とは?
»【卵子凍結のリアル②】不妊検査をしてくれない夫とは離婚
»【卵子凍結のリアル③】一度もセックスしていない“未完成婚”
「もう卵子の採取はこりごり」
IT企業に勤める明子さん(仮名)は、リケジョの総合職、年収1200万円、住まいは都心のタワーマンション。結婚・出産よりキャリアを優先させる女性の典型のようなプロフィールだが、本人はすぐそう思われてしまうことに辟易している。
「私たちの世代は『自分たちは結婚退職が当たり前だったからそうしたけど、あなたは後悔しないようにしてね』という母親世代の後悔と期待を背負って就職したんです。だから真面目に仕事をしてきただけです」
結婚を考えた恋人もいたが、母、続いて父が病に倒れ、仕事と看病でいっぱいいっぱいになっている間に疎遠になってしまった。
「両親の最期を看取り、気づけばアラフォーに。一人っ子の私は孤独死がリアルになってきました。そうならないために一人でできる妊活を始めたんです」
これから婚活するにしても、その間にも卵子は老化していく。だから婚活の前に卵子を凍結しておく。それが明子さんの「一人でできる妊活」だ。
採れる卵子の数には個人差があるが、明子さんは状態のいい卵子が12個採取できた。「体外受精の成功率から、卵子は20個以上保存しておくほうがいいとわかっているんですが、でも、もう卵子の採取はこりごりなんです」
卵子凍結は、射精したものを凍らせるだけの「精子凍結」とは大違いで、体内から卵子を採取する手術が必要だ。手術は膣から卵巣まで届く長い針を刺して卵子を吸引するというもので、全身麻酔で行われることもある。
しかも術前には排卵をコントロールするため、半月にわたって決まった時間に点鼻薬をさしたり排卵誘発剤を注射したりしなければならない。仕事に支障を来さないようにこれをやり遂げるだけでも一苦労なのに、排卵誘発剤は往々にして更年期障害のような副作用を伴う。
「毎日お腹がパンパンに張り、苦しくて泣きそうになる。病気ではないから仕事を休むわけにはいかず、『これもすべて自己責任』と自分に言い聞かせました。実に孤独な戦いです。こんな思いまでして卵子を凍結したのは、それだけ真剣に子どもが欲しいから。だから次は婚活を頑張ります」
【Column】卵子凍結と精子凍結は大違い! 手術と思ったほうがいい
男性にとって精子の凍結は簡単だ。容器に自分で精液を入れるだけで、採取は自宅でもできる。これを洗浄、濃縮したものが凍結保存される。
卵子凍結のためには、女性は体内から卵子を取り出す手術を受ける。しかも事前の準備が必要だ。
自然に排卵した1個の卵子で体外受精を成功させるのは極めて難しいため、1回の採卵手術でなるべく多くの卵子を採取して保存することができるように、卵巣刺激剤(排卵誘発剤)を使用し、卵巣に多くの卵胞(卵子が入った袋)を育てておかなければならないのだ。
採卵手術では、このようにして成熟させた卵巣内の卵胞に1つずつ膣から長い針を刺し、中の卵子を吸引していく。
»【卵子凍結のリアル②】不妊検査をしてくれない夫とは離婚
»【卵子凍結のリアル③】一度もセックスしていない“未完成婚”
※週刊文春WOMANより転載
※記事内の情報は週刊文春WOMAN新春スペシャル限定版発売(2016年1月1日)時点のものです。
2022.10.11(火)
文=小峰敦子