歌舞伎座自体が持つ“力”

――それにしても、歌舞伎座で講談を読むってどんな感じなんでしょうね。

伯山 今回、お客さまは1750名ほどでしょうか。これまでもその規模のお客さまを前にしたことはありますが、歌舞伎を大切にしてきた方の場所を、1日だけとはいえお借りするわけです。みなさんが大事にしてきた宝物にちょっとだけ触れさせていただく感じでしょうか。

 それだけに特別な力が働くのか、かつて歌舞伎座で高座に上がった笑福亭鶴瓶師匠、立川談春師匠、あれだけ無双を誇るおふたりが「普段通りには出来なかった」とおっしゃっているんです。百戦錬磨のおふたりが、歌舞伎座には飲み込まれてしまうような感覚になった。歌舞伎座自体に力があるんですよ、きっと。そうした劇場で講談を読ませていただくのは、本当にありがたいことです。

――そして10月には、同じ舞台で別の世界観を味わえるわけですね。

伯山 松緑さんとしては、今回の「荒川十太夫」、なにをもって「成功」になるんでしょうか。

松緑 まず、第一にお客さまの反応です。次に動員ということになりますね。そしてもう万々歳となるのは、「何年か先に再演すること」になるでしょうか。さらには、今回をきっかけに講談と一緒に何かやっていこうという流れになれば成功でしょうね。

伯山 僕としてはまず9月28日を無事に迎えたいです。大正時代、二代目の大島伯鶴先生が歌舞伎座で読んだ以来、およそ100年ぶりの歌舞伎座での講談会。大きく講談の歴史が動くところをご期待ください。


写真=佐藤亘/文藝春秋

2022.10.02(日)
文=生島 淳