伯山 今回、松竹さんから9月28日か29日という日程の打診をいただきまして、28日は師匠である松鯉の80歳の誕生日ということもあり、その日しかないと。でも「師匠、9月28日のご予定はいかがでしょうか?」と尋ねたところ、「伯山、その日は予定が入っているな」と。

――他のお仕事か、なにか?

伯山 「その日は私の誕生会が入っているな」って(笑)。なので「師匠、もちろんお誕生会も大切だと思いますが、みなさんを歌舞伎座にお招きするというのもよろしいのではないでしょうか」と申し上げたら、「おお、その手があったか」と。

松緑 それは松鯉先生にとっても最高の誕生日になるのではないでしょうか。

伯山 そう思います。もともと師匠は歌舞伎の役者を少しやっていたこともありますし、歌舞伎座の舞台に上がるのは幸せなことだろうなと想像しています。私も一緒に出させていただくのは、とても光栄なことです。僕はラジオで歌舞伎役者の方に言及することもあるので(笑)、クリアしなければいけない問題は多々あったと思われますが、今回の企画が実現したのも松緑さんのご尽力の賜物です。

歌舞伎と講談の“親和性”

――歌舞伎と講談って、とても親和性が高いんですよね。私が松之丞時代の伯山先生の講談を聞いたのは「お紺殺し」という怪談でして――。

松緑「籠釣瓶(花街酔醒)」の発端となる話ですね。

伯山 僕がいま取り組んでいる「天一坊」や、うちの師匠が得意とする「天保六花撰」は歌舞伎の「河内山」とつながっていますし、またその逆で、歌舞伎が講談に影響を与えたものもたくさんあります。

松緑 お互いのジャンルが刺激し合っていた時代だったということですね。

伯山 その流れが最近まで断絶してしまっていたわけです。今回、うちの師匠と松緑さんが「荒川十太夫」を上演するということは、昔の歌舞伎界と講談界の関係性を再現しているところもあって、非常に意義深いことだと思ってます。

2022.10.02(日)
文=生島 淳