講談と歌舞伎“いちばんの違い”

――実際、講談を新作歌舞伎にするのは、難しいことなんですか?

松緑 たしかに新作ではありますが、ご覧になったお客さまが「あ、この話は見たことがある気がする」と感じるような、“擬古典”のような手触りがあると思うんです。

伯山 たしかに。良い意味でどこかで見たこと、聞いたことがあるような話ってことは、すごく大切ですよね。人の琴線にふれる確信というか。歌舞伎、講談それぞれにいいところがあって、両者が光り輝くような形になることが望ましいと思うんです。どうでしょう、歌舞伎の「荒川十太夫」はどんなところが見どころでしょうか。

松緑 講談と歌舞伎、いちばんの違いは、講談では伯山先生がおひとりですべての登場人物の物語を読むわけですが、歌舞伎はそれぞれの役を別の役者が演じます。これは結構難しいことでして。今回、市川猿之助さんが堀部安兵衛役で出てくれることになり、歌舞伎ならではの「荒川十太夫」がお見せできると思います。

――これからは、いろいろな「荒川十太夫」を読んだり、聞いたり、観られたりするようになるかもしれませんね。

松緑 たとえばマンガや小説が映画になった時に、違う物語になりますよね。あるいは楽曲でもオリジナルがあって、それがカバーされて、聴き比べが出来る。これは世界観が豊かになりますし、すごく楽しいことだと思うんです。今回、歌舞伎の荒川十太夫は、寡黙な人物になるはずです。

講談ファンにとっての驚き

伯山 僕も歌舞伎座で拝見させていただいた後に「荒川十太夫」を読んだら、えらい寡黙な荒川になっているかもしれない(笑)。歌舞伎になることで講談にとっても大きな刺激になりますし、僕もまた頑張っていかなきゃと思うはずです。

――それは観客も一緒かもしれないですね。客席やCDで「荒川十太夫」を聴いていた講談ファンにとっては、歌舞伎座でいきなりビジュアライズされるわけですから。

伯山 今まで講談で聴いて勝手に妄想を膨らませてきたものが、いきなり実写を見せられて、「えっ、こういうことだったの!」と驚く様子が目に浮かびます(笑)。

2022.10.02(日)
文=生島 淳