松緑 今までイメージとして想像していたものを、ひとつひとつ決めていかなければいけませんからね。着物にしても紺系を使うとちょっと若くなってしまったりするので、宣伝写真では赤バックで緑の裃にしました。また、かつらを元禄のものにすると、衣裳も元禄にしなければなりません。そうすると、柄が入っていたりするので、「荒川十太夫」の世界観にはそぐわない。でしたら、芝居の嘘を巧く取り込んで、かつらは普通の侍の頭でいこうかなと考えたりするわけです。
伯山 うわ、面白い。僕みたいに喋っていればいいわけじゃないから、大変ですね。
歌舞伎初心者はどう楽しめばよいか
――伯山先生の講談を聞いたことがある人でも、「歌舞伎は見たことない」という人がいると思うんです。値段の心配であったり、「お客さんがみんな着物着てるんじゃないの?」という妙な先入観があったり。
伯山 お客さんがみんな、着物は着てませんから(笑)。値段ですが、10月の歌舞伎座の第一部は一等席が1万6000円です。でも、「荒川十太夫」だけじゃなく、猿之助さんが主役を勤める「鬼揃紅葉狩」と揃って上演されるし、歌舞伎初心者の方にとっても楽しめるんじゃないかと思ってるんです。
松緑 第一部の話をさせていただくと、「鬼揃紅葉狩」は当代の市川猿翁のお兄さんがブラッシュアップされた舞踊で、今回は猿之助さんが勤められます。現代的な群舞があったり、演出が派手なので、お客さまの鼓動とシンクロすると思いますね。その後は一転して、「荒川十太夫」で武士の情を描いた演し物がありますので、違った世界をお楽しみいただけるのではないかと思っております。
伯山 舞台をご覧になると分かると思いますが、歌舞伎はものすごい人数で作り上げられている。だから、そういう意味では必ずしも高くないんじゃないかと思います。むしろ冷静に考えると、僕の独演会の方がひとりなので割高な気がします(笑)。
2022.10.02(日)
文=生島 淳