講談の名作「荒川十太夫」を新作歌舞伎に
「荒川十太夫」とは講談の人間国宝である松鯉が得意とする名作。赤穂義士の外伝物で、堀部安兵衛の切腹の際に介錯をつとめた下級武士の苦悩と覚悟を描く。
〈あらすじ〉
伊予松山藩の目付役、杉田五左衛門は赤穂義士の七回忌に墓参へと向かった。松山藩は吉良邸に討ち入った赤穂の義士10名が預かりとなり、切腹までの時を過ごした場所で、杉田も義士たちへの思いが深かった。
ところが墓参の途中、杉田は自分の目を疑う。御徒役の荒川十太夫が、はるかに上役である物頭役の恰好をして墓参をしているではないか!
身分を偽るのは死罪を申し渡されても仕方の無い程のご法度。しかし、荒川は堀部安兵衛の介錯人を務めるなど文武に秀でた武士。なぜ、荒川は身分を偽ってまで墓参をするのか。藩主が直々に詮議にあたることになり、その場に引き出された荒川は――。
「この講談ならば、歌舞伎でもお客さまに喜んでいただける」
松緑「荒川十太夫」は非常に分かりやすく、最後まで悪人が出てこない物語です。これは落語を題材にとった歌舞伎、「文七元結」にも共通していることなんですが、最後まで見ると気持ちが晴れやかになるんですね。この講談ならば、歌舞伎でもお客さまに喜んでいただけるのではないかと思いまして。
そこでCDを松竹の製作部の方々にも聞いてもらったんですが、「これはいいものになりそうですね」ということで、いま演出家の西森英行さんのご協力をいただいて、舞台を作っているところです。
――伯山先生は、松之丞時代に「講談へのアクセスルートを増やしたいんですよ」ということで講談の入門書やCDを出されていましたが、こうした形で実を結びましたね。
伯山 数年前は、講談は落語に比べて参考図書や音源が圧倒的に少なかったんですよ。でも今は講談師が主人公になったマンガ(「ひらばのひと」)もありますし、今回は講談が歌舞伎になるわけです。これは昔をさかのぼるとよくあったことですが、近年は珍しいわけで。ですから、僕はラジオで人の悪口を言っているだけじゃないんです(笑)。まぁ本当は、全部師匠の尽力なんですけどね。
2022.10.02(日)
文=生島 淳