森村の琴線に触れた、滅び行く者たちへの共感

「絵画の国に住む(画家)」2013年
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 もうひとつ、最近の森村の琴線に触れる感覚として、滅び行く者たちへの共感のようなものがあった。本作の直前に取り組んでいた〈レクイエム〉シリーズが、滅び行く20世紀と20世紀的な人々をテーマとしていた理由の一端はそこにあるようだが、同様に《ラス・メニーナス》が描かれた17世紀半ばのスペイン王国も、栄光に凋落の影が差し始めた黄昏の王国である。

 1588年に無敵艦隊が英海軍に敗北、王国の繁栄に翳りが見え始めた17世紀の初頭に、ベラスケスは24歳の若さで王付きの画家として抜擢される。そして国王フェリペ4世による理解と厚遇に恵まれ、画家自身を絵の中に描き込み、かつ画家・モデル・鑑賞者の立場と視線が画面を複雑に行き交う《ラス・メニーナス》を描き上げた。森村はこう語る。

「絵画の国に住む(王女)」2013年
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「画家と国王はまさに共犯関係だったと思うのです。フェリペ4世は政治家としての資質はともかく、芸術に深い理解を持ち、現代まで残る作品を数多く作らせた王でした。そしてベラスケスも王の信頼に応えて、ただのお抱え画家とは違う、提案性のある仕事をした。なぜなら、黄昏のスペイン王国に閉じこめられるしかなかった王家の人々と、その薄暗い迷宮を、画家もまた愛していたからです。

 ベラスケスはかつて、二度にわたって絵を学びにイタリアへ行き、なかなかスペインへ戻ろうとしませんでした。恐らくその光溢れる場所に留まるか、闇が押し寄せて来るスペインへ帰るか、葛藤があったのだと思います。でも結局彼は、光の世界に憧れつつも、スペインへ戻る。そしてこういう絵を描いてしまう。だから彼の絵には、王家の人々と同じ場所にいる感覚がある──と、いうのは僕が頭の中で作った物語です。ですがそもそも芸術というものは、本来閉じられた世界でやっている、後ろめたいものですから(笑)」

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2013.10.12(土)