新政を筆頭に、全国的にも人気の酒蔵が多数ある秋田県。

 今、酒どころ・秋田の西部、男鹿市で新しい日本酒が産声を上げている。その名も“クラフトサケ”。クラフトサケのルールはシンプル。日本酒の流儀に則りながらより自由で、楽しいお酒というものだ。

 2022年の6月にはクラフトサケブリュワリー協会も立ち上がり、8月20日、21日には男鹿市駅前で全国各地から7つのクラフトサケ醸造所のお酒が集まるイベント「猩猩宴(しょうじょうえん)」が開催され4,000人以上が参加するなど、注目を集めている。

 クラフトサケの仕掛け人は協会の初代会長であり、イベントの主催でもある稲とアガベの代表・岡住修兵さん。日本酒新時代を切り拓く若き杜氏に話を聞くとともに、スペシャルなイベントの様子を取材した。

新しい日本酒の形「クラフトサケ」

 秋田県男鹿駅のすぐ隣に「稲とアガベ」はある。「稲とアガベ」は2021年に創業したクラフトサケ醸造所。日本酒の製造技術をベースに、新しい味わいのお酒を造っている。

 なぜ日本酒ではないのか?

 それには日本の法律が大きく関係している。というのも現在の日本では、清酒(いわゆる日本酒)の酒類製造免許を新たに取得できるのは既存の清酒業者のみに限られているという現状があるのだ。2020年4月の法律改正により、海外輸出向けの醸造所については免許が発行されるようになったが、国内で新規事業者が日本酒を製造・販売をすることはできない現状になっている。

「僕たちも輸出用清酒免許を取得しています。今の日本では酒造りに情熱を持つ若者が業界に新規参入することすらできないのです。僕はそんな法律を変えたいと思うし、日本酒の未来を創りたい。そのために今は『その他の醸造酒』と呼ばれるお酒を造っています」(以下、岡住さん)

 屋号にもあるアガベシロップを使った「CRAFT series 稲とアガベ」をはじめ、岡住氏の造るお酒は豊かな味わい、爽やかな風味が印象的だ。聞けば、新政や群馬県の土田酒造で修行をしていたという。

「日本酒が造れないから、今のお酒を造っているのではなく、新たな日本酒の可能性を探りたい、新しい味わいのお酒を造りたい、という思いでクラフトサケを造っています。ですから、日本酒の造りかたと基本的に変わりはありません。良い水と米と麹、そこを大前提に自由にお酒を造っているだけなんです」

 米は地元100%で自社栽培&契約農家で作ってもらったササニシキなどを使い、水は滝の頭という寒風山にある湧水地から毎週汲んでいる。寒風山に降り注いだ雨水が20年以上の歳月をかけ湧き出てくるので、ミネラルを豊富に含んでいるという。

 男鹿の良い水と米に出合うことで新たな発見もあった。

「これまでの日本酒ではお米は磨けば磨くほど良い酒であるとみなされてきました。精米歩合が多いお酒では削った部分が90%になることもあります。よくよく考えると純粋に勿体ないですよね。

 元々はお米の外側にあるたんぱく質や脂が酒造りに不向きであることから磨いていたのですが、肥料を過剰に入れない自然栽培のお米だと、そもそもそういった余分な要素が少なく、磨かなくても良い味を引き出せる可能性があるんです。

 だから『稲とアガベ』では精米歩合を90%程度、外側の10%ほどを磨くだけにとどめています。米を磨かず、技と田んぼを磨く。『稲とアガベ』の標語ですね(笑)」

2022.09.25(日)
文・写真=CREA編集部