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演じたことで見いだせたマリウスの心情

 『レ・ミゼラブル』の初観劇からわずか2年で掴んだ大きなチャンス。マリウス役に選ばれた三浦さんは錚々たる先輩たちの中でプリンシパルキャストとして名を連ねた。

 「2019年のときは、海宝(直人)さんと内藤大希さんとのトリプルキャストだったのですが、元々面識のある先輩方でした。トリプルキャストという状況自体が僕にとって初めてのことだったので、どうなるのだろうと緊張していたのですが、お二人には本当に優しく接していただいて、何から何まで教えていただきました。自分にはできないことが多かったので、先輩方のお芝居を見て、悔しい思いもありましたが、素晴らしいお芝居を目の当たりにするだけでなく、優しく教えていただけることは、僕にとって、とても良い経験でした。

 しかも『レ・ミゼラブル』は自分自身が観て感動した作品だったので、自分が演じるとなると足はすくみますよね。僕はそんなに緊張しないタイプなのですが、『レ・ミゼラブル』のときは、すごく緊張感がありました。2度目の公演のときも、その緊張感は保たれているような気がしました。結構な回数の公演に出演してきましたが、慣れるということがないんです。マリウスは基本的に“葛藤”を歌うことが多い役です。有名な『民衆の歌』もみんなの気持ちが一つになって革命のために闘いにいくわけですから高揚感はありましたが、その時ですら心が揺れて“葛藤”を抱え続けているので、演じていて気持ちよくなれる瞬間はありませんでした。解放されるのはカーテンコールぐらいでしたね」

『千と千尋の神隠し』でハク役を好演

 当時を思い出しながら話す三浦さんの言葉からは、マリウスという役の気持ちに寄り添って演じていたことが、伝わってくる。そんな彼は2022年に世界初演された舞台『千と千尋の神隠し』で、あのハク役を演じたことでも話題となった。

 「日本が世界に誇るアニメーション作品の初の舞台化で、とてつもない規模の公演に参加させていただけたことは、僕にとってすごく貴重な経験でした。クリエイティブスタッフの方々とミーティングを重ねながら、“舞台を一から創る”という作業は夢のような時間でしたね。そして、演出のジョン・ケアードさんは天才だと思います。今は技術があれば何でもできてしまうところをアナログで表現することが作品の中に生かされているんです。それをもう一人のハク役の醍醐虎汰朗くんが演じているときに観て、一観客として素晴らしい作品であることを実感しました。

 そしてジョンさんはテクニカルな部分での段取りがすごく大変なのにも拘わらず、役者の気持ちにも寄り添ってくれる方でした。この音楽のきっかけで動きにくくても動くとか、セットが移動するからこの位置にいなければならないとか、お芝居にはいろいろな約束事があるんですが、『千と千尋の神隠し』ほどの規模になると、無条件でそれを受け容れなければなりません。ところがジョンさんは、役者が演りにくいことを相談すると、“ああ、わかった!”と快諾して、対応してくれました。もちろんできないこともありましたが、その都度向き合ってくださったという印象です」

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三浦宏規(みうら・ひろき)

1999年、三重県出身。5歳でクラシックバレエを始め、数々のバレエコンクールで入賞を果たす。最近の出演作にミュージカル『レ・ミゼラブル』や舞台『千と千尋の神隠し』など。2023年には、舞台『キングダム』で主役の信を演じる。

ミュージカル『ヘアスプレー』

1988年の映画『ヘアスプレー』(ジョン・ウォーターズ監督)をもとに、2002年にブロードウェイで開幕、トニー賞8部門を受賞。世界中で大ヒットした人気作を日本キャストで初上演。2022年9月17日(土)~、東京・東京建物 Brillia HALLを皮切りに、福岡、大阪、愛知の4大都市にて上演。
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次の話を読むミュージカル界が大注目! 三浦宏規、23歳の素顔 【後篇】 舞台「ヘアスプレー」を語る

2022.09.17(土)
文=山下シオン
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=丸山晃穂(JYUNESU)
スタイリング=小田優士